「生活保護解体論」という考え方がある。
生活保護制度に設けられた生活、教育、住宅、医療など八つの給付を解体し、既存の社会保険制度などの低所得者対策に溶け込ませ、困窮者が容易かつ柔軟に給付を受けられるようにしようとする試みだ。
2021年11月、貧困問題や福祉政策研究の第一人者・岩田正美(いわたまさみ)日本女子大名誉教授が同名の著書を世に送り出し、提唱した。
生活保護制度は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法25条に基づき、全ての困窮者に必要に応じた保護を行うことを目指してきた。それを解体しようと提言する背景には、時代の変遷の中で「生活保護が制度疲労を起こし、使い勝手が非常に悪くなっている」現実がある。
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現行の生活保護法は1950年に制定された。終戦直後、国民の多くが貧しい時代にあって、保護対象は何もかもを失った生活困窮層を想定した。日々の所得保障をはじめ、あらゆるサービスを給付する理想的な制度として立ち上がった。
一方で、制定から約70年が過ぎても制度は大きな改正を経ずにきた。社会保障の中で、万策が尽きた困窮者が利用する「最後のセーフティーネット」としての位置にいまだ留め置かれ、「身ぐるみをはがされた丸裸の状態しか、貧困と認められない」と岩田名誉教授は批判する。
利用者には常に偏見がつきまとい、税金から保護費が捻出されることからバッシングの対象にもなりがちだ。行政による受給資格を判定するための資産などの細かな調査、親族に援助できるかを問う「扶養照会」。加えて申請以前に窓口で門前払いする、「水際作戦」という不適切な対応がなされる場合もある。制度にまつわるさまざまな要素が、保護につながるまでのハードルを高めてきた。
厚生労働省が3月に公表した、2019年の国民生活基礎調査に基づく「低所得世帯に対する被保護世帯割合等の推計」によると、ひと月の所得が生活保護基準に満たない世帯のうち、生活保護を利用している世帯の割合は22.6%。制度が、困窮者を十分にカバーできていない状況を浮き彫りにしている。
「『今、貧困である』人が利用できていない。その状態にすばやく対応できる制度があることが重要だ」
岩田名誉教授は解体論で、最低生活保障の在り方を見つめ直そうとしている。
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2023年秋。一人の女性が、県央自治体の生活保護窓口を訪ねた。
4人の子どもを育てるシングルマザーひかるさん(28)=仮名。月10万円にも満たないアルバイト収入と児童扶養手当などで生計を立てる。子の成長とともに日々の出費が増え、貯金が底を尽きていた。
過去に、親類の生活保護申請を手伝った経験があり「困った時に頼れる制度」と思っていた。
でも、希望はあっさりと断たれることになる。
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