玩具会社のタカラトミー（東京都）が宇宙航空研究開発機構（JAXA）と共同開発した小型探査ロボット2機が、2022年度中にも月面を探査することになった。大ヒットした同社の変形ロボ「トランスフォーマー」や、組み立て玩具「ゾイド」から着想した技術を使っているという。どんなロボットなのか。
探査ロボは「SORA―Q」。野球のボールほどの大きさで、丸く、網目状のボディーをしている。月面に着くと自動でボディーが左右に割れて車輪のようになり、これを回転させて前進する。前後についたカメラで月面を撮影し、画像データを地球に送る。
始まりは15年、JAXAが民間企業と共同で新事業をつくるプログラムの一環として、探査ロボの開発を公募し、タカラトミーが応募したことだった。小型二足歩行ロボや省電力技術の研究開発に取り組んでいた実績が買われ、プログラムに採用された。
球体から変形して走るユニークな構造は、大学院時代に宇宙工学を学んだ同社の羽柴健太さん（37）の発案だ。「玩具会社らしいものを考えていたところ、トランスフォーマーの『変形』が頭に浮かび、アイデアがひらめいた」と羽柴さん。球体にすればコンパクトに運べて衝撃にも強く、JAXAも「この発想はおもしろい」と評価した。
探査ロボはなるべく小型で軽量にすることが求められる。ただ月面は「レゴリス」と呼ばれる細かい砂に覆われており、小さな車輪では埋もれて走れなくなる。開発に携わった同社のベテラン、米田陽亮さん（61）は「ふかふかの粉末のような砂の上をどうやって走れるようにするかが非常に大変だった」と言う。
米田さんらは、ボディーそのものを車輪に使うことを思いついた。車輪の回転軸をあえて中心からずらし、左右の車輪を別々に動かすことで、水泳のストロークのような力強い走行ができるようにした。
米田さんは1980年代初頭、「ゾイド」の開発初期に設計やサンプル作製を担当したエンジニアだ。この動きは、動物が実際に歩行しているように見せる「ゾイド」の駆動技術をヒントにしている。
米田さんは「子供は想像もつかない扱い方をするので、おもちゃは丈夫につくらないといけなかった。そうした過去の積み重ねがあったので、月の上でも動くものが作れたと思う」と語る。
22年度はJAXAの月面着陸機「SLIM」と、宇宙ベンチャー「ispace（アイスペース）」の月着陸船という、日本の月面着陸機を打ち上げる機会がある。SLIMは日本のH2Aロケットを使い、月の赤道近くにあるクレーター付近の斜面に着陸する。ispaceの着陸機は米スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられ、月の北半球にある平原地帯に着陸する。JAXAは「異なる場所を探査することで将来の探査に向けた技術を試せる」として、両方の着陸機に、タカラトミーの探査ロボを1機ずつ相乗りさせることにした。
羽柴さんは「自分で考えた探査ロボットが本当に宇宙に行くなんて、夢のような話。これをきっかけに子供たちがより身近に宇宙を感じられるようになれば、すごくうれしい」とミッションの成功を祈る。
トランスフォーマーはタカラトミーの前身タカラが作った変形ロボを基に84年、米国で玩具が発売され、日本に逆輸入する形で販売が始まった。世界で人気を博し、ハリウッドで実写映画化もされている。ゾイドは恐竜や動物をモチーフとした組み立て玩具のシリーズで、タカラと合併前のトミーが83年から発売。80～90年代に大流行し、今も新作が発表されている。【池田知広／科学環境部】
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科学＆テクノロジー
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