2011年3月11日の地震によって崩壊した道路。津波だけではなく、地震による被害も大きかった (NURPHOTO/GETTYIMEGS)
欧米先進国から遠く離れた極東に位置する日本が、戦後、急速に経済発展し、地域間所得格差や国民各階層格差も世界的に見て際立って少なく、多くの国民が豊かな生活を送れるようになった。この背景の一つに、工業団地、電力、工業用水や交通などの適切な「社会資本整備」によって、地方に製造業を誘致し、観光や流通などを活性化して、雇用と所得を生み出したことがあった。
一方で、戦後70年以上が経過する中、「コンクリートから人へ」のスローガンに代表されるように、社会資本(以下、インフラ)整備を主張することに消極的な社会風潮がある。これは世界の中でも日本だけの特異な現象であり、欧米や発展途上国では国家の首脳がインフラの重要性を説くのが当たり前なのである。
日本の公共事業予算はピーク時から半減している(下図)。財政制約の中で必要なインフラをいかに選択し、効率的に整備・運営するかが問われている。
本論では防災に限定して、東日本大震災から10年目を迎えたこの時期に、迫りくる南海トラフ地震や首都直下地震、頻発する水害や土砂災害、インフラの老朽化問題など、次なる大災害に備えてのインフラ整備とその運用について論じたい。
インフラ整備に必要な
5つの「重い選択」
まず、これからのインフラ整備のあり方を論じるにあたり、単純化した議論ではなく、「重い選択」を迫られている5項目を挙げて、その適切な判断と実行が、今後の日本のために極めて重要であることを指摘したい。
①選択と集中:これは当然のことと理解されているが、そう単純ではない。例えば、5年で建設できる道路が3本あったとする。予算を毎年3分の1ずつ配分すれば、15年目に同時に完成する。優先順位をつけて5年に1本ずつ整備しても、最後の1本は同じ15年目に完成し、他地域より遅れるという抵抗感だけである。
しかし、利根川治水事業に50年かかったとする。その間、淀川治水は後回しにされれば、大阪の住民は被害を受け続けることを許容できないであろう。選択と集中とは、特に防災に関しては、公平性の判断を伴うのである。
同様に、整備に要する時間の決定も重要な課題である。それが費用削減に関係するにもかかわらず、費用の積算に比べその設定根拠は曖昧である。事業の遅れの理由は用地確保、地質条件といわれるが、予算制約による遅れの事例も多い。これも結局、選択と集中、そして公平性の問題なのである。この問題の解決方法として費用便益分析の重要性が指摘され、実行されている。
②事業評価:費用便益分析とは、ある事業の実施に要する費用(建設費、用地費、補償費、維持管理費など)に対し、社会的便益(移動時間の短縮、事故や災害の減少による人的・物的損失の減少など)がどれぐらいであるかを評価する方法であり、一般的に費用便益比が1以上であれば、その事業は妥当とされ、無駄の排除に効果を上げている。
ただし、万能ではなく計算される便益は限定的である。例えば、災害は稀にしか起こらず、また遠い将来の便益の現在価値は小さくなるため、防災事業は、常時使う施設の事業に比べて、相対的に不利な評価となることが多い。
かつて、わが国の建設大臣は、費用便益比が1以下の事業はやらないと答弁しているが、ほとんどの国では、分析結果を公開した上で判断は大臣などに任され、その代わり、採択した理由の説明責任を負わせているのである。
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