「ゲーミング家具」のことを考えると、独特のデザインが頭に浮かぶ。エッジは鋭く、RGB照明が施され、なぜだかレーシングカーのシートを思わせるデザインで、ほかの生活空間には調和しにくいものが多いのだ。
イケアはこの点を、ゲーマー向けの新製品で変えようとしている。でもここで疑問が浮かぶ。現代の住まいのなかで、ゲーミング家具はどのように位置づけられるのだろうか?
ゲームをすることを中心に設計された生活空間はめったにない。ほかの目的のためにつくられた空間にゲーミングが入り込むことになるほうが多い。ゲーム機が設置されるのは、テレビを快適に観るためにデザインされたリビングルームだ。PCゲームをするときの環境は、コンピューターで何時間も仕事をすることを想定してデザインされたものとよく似ている。
基本的にはそれで問題ないのだが、わたしたちは、ときにソファで快適にノートPCを使いたいと思い、それのための複雑なアクセサリーに手を出すこともある。イケアの「BRÄNNBOLL」コレクションは従来の生活空間と、ゲーマーたちがとる特有の姿勢の間にあるギャップを埋めるようにデザインされている。
求められていた“低く座れる”こと
一見したところ、イケアのゲーミングコレクションはほかの製品ラインナップとあまり大きく違わないような印象を受ける。ビビッドな色使いとミニマリストなデザインが特徴的だ。しかしよく見てみると、すぐには理解できないようないくつかの決断がなされていることがわかる。それを理解するには、実際に家具を使って人がゲームをしている姿を想像しなければならない。
例えば、Gaming Lounge Chairというラウンジチェアの座面にはふたつの正方形のクッションがあり、3つ目のクッションが背面に備えられている。2本のパイプがひじ掛けとなり、前部にはふたつのキャスターがある。座面は非常に低く設計されており、下のクッションを展開することでさらに低くなり、脚を伸ばせるようになっている。
独特なデザインだが、長時間ゲームをする際にとっている姿勢を想像すれば、その理由が理解できる。イケアのプロダクトデザイン開発者であるフィリップ・ディーレのチームは、多くのゲーマーが低く座れることを求めていることに気づいたと『WIRED』に説明する。「ゲームをする人たちの好みは、本当にそういうものでした。低く座り、テレビや使っているデバイスに近づきたいと思っているんです」
なぜゲーマーだけに特別なニーズがあるのか、理由を正確に説明するのは難しいが、ソファに座ってそのことを考えていたら思いついたことがいくつかあった。テレビはいつも同じ高さにあるが、映画を観ているときとゲームをしているときで、見つめているスクリーンの位置が違うのだ。映画やテレビ番組の場合は、視線はディスプレイ上部の3分の1あたりに向いている。一方、「スパイダーマン」のゲームをしている場合、わたしの操るキャラクターはだいたいいつも下の3分の1の位置にいる。つまり、頭が少し下を向くのだ。
わたし自身も、ゲームをしているときは前かがみになることが多い。アクションにのめり込んでいたり、集中力を高めるために無意識に体が動いてしまったりしているかもしれない。理由は何であれ、前かがみになるとストレートネックになり、猫背になる。もう少し歳を取ったら、この体勢を続けたことを後悔するに違いない。負担を減らすために、上体を下にスライドさせるのは自然に感じられるのだ(そうすると今度は腰が犠牲になるわけだが)。
イケアのゲーミングコレクションに含まれる家具の多くが、ゲーマーがそのような姿勢をとることを考慮してつくられている。Gaming Easy Chairという椅子も座面が低く設定されており、成形されたメッシュシートがメタルフレームで支えられている。ディーレによると、ゲームに深く入り込んでいるプレイヤーは体を左右や上下に無意識に動かすことが多いそうだ。その行動に合わせて設計した。「いわばロッキングチェアの新解釈で、ここでは座る人がスイングするのです」
見えなくなるゲーム専用スペース
自宅にホームシアターを設置する人がいるように、自宅にゲームのためだけの部屋を設けようとする人もいる。ゲームが生活の中心にあるからだ。だが、ほとんどの人にとっては、ゲームはあくまでときどき楽しむ趣味でしかない。では、ゲームをしていないとき、ゲーミング家具はどうすればいいのだろうか?
多くのゲーミング家具は、ほかの家具と調和するか、完全に隠すことでこの問題を解消する。オフィスチェアにしか見えないゲーミングチェア、使っていないときはソファの下に収納できる折り畳み式のデスクなどもある。
イケアは異なるアプローチをとった。Gaming Lounge Chairにはキャスターが付いているので、ゲームに集中したいときはテレビのほうに移動することができ、休憩をしたいときはスクリーンから遠ざけることができる。今回のコレクションのほかの家具の多くも、同様のデザイン哲学を採用している。
特に注目したのはサイドテーブルだ。普通の脚が2本と、キャスターが付いた脚が2本付いている。これも室内で動かすことを前提につくられている。ゲームに入り込みやすいし、ゲームが終われば、使い勝手のいい場所へ動かせばいいのだ。
イケアでグローバル・デザイン・マネージャーを務めるヨハン・エイデモは、部屋の中で移動できる家具のデザインをするなかで新たな課題が提示され、その解決策を見出すための新たな機会も見えてきたと話した。「チームでは、とても気の利いた、ユニークなものもつくっています。ポップコーンのボウルが倒れないホルダースタンドなどがそうです」
そしてエイデモは、サイドテーブルの周囲を囲む、テーブル面から少し高い位置に設置された金属製の枠について説明した。これがあるおかげで、テーブルを動かしても上に置かれたものは落ちない。それだけでなく、例えば「DARK SOULS」のラスボスに50回目連続で負けたプレイヤーが暴れても、ドリンクが倒れにくいように設計されているのだ。
PCゲーマーのためのスペースをデザインしたGaming Stationはというと、移動できる家具とは異なる設計思想でつくられている。その内側には、モニター用のスペース、キーボードトレイ、タワー型PCを設置する場所、さらには椅子を収納する空間もある。だが、ドアを閉めるとすべてが隠れるのだ。ドアが開いているときも、プライバシーの確保が少しできるデザインとなっている。
部屋の使い方から考えるデザイン
わたしがいま住んでいる部屋に入居したとき、間取り図には「リビングルーム」「バスルーム」「キッチン」などといった標準的なラベルが付いていなかった。代わりに、「生活」、「休息」、それから……ええっと、確か……「栄養補給」などといった行動内容が書かれていた。少しばかばかしくも感じたが、これは自宅の空間についてタスク中心に考えるアプローチの表れだとも言える。
イケアのゲーミング家具へのアプローチは、いまだかつてないほど、部屋が実際にどう使われるかを考慮しているように思える。これらがヒット商品になるかどうかはわからない。イケアはいわゆるゲーマーらしいデザインを採用していないかもしれないが、それでも独自のスタイルで家具をつくっている。好みは人それぞれだが、イケアが無視できない存在であることは確かだ。
長時間のプレイと、それに伴って部屋が散らかることなどを想定してつくられていて、使わないときは「普通の」家具に変身する柔軟なゲーミング家具というアイデアは実現可能だろうか? このデザイン原理は、今後も定着する可能性が高い。少なくとも大学時代のわたしなら、このガードレールのついたサイドテーブルがとても気に入っただろう。
(Originally published on wired.com, translated by Kei Hasegawa, LIBER)
※『WIRED』によるイケアの関連記事はこちら。
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