開発者との連携や、その支援を行うAppleだが、その一環として、WWDCでは「Apple Design Awards」と呼ばれる賞を設けている。WWDCの開催に合わせ、ファイナリストをノミネート。その受賞者をWWDCで発表するのは、毎年の恒例行事だ。アプリやゲームはiOS向けだけでなく、iPadOSやwatchOS、macOSなど、プラットフォームをまたいで選出され、その技術や革新性などが評価される。
2023年のWWDCで開催されたApple Design Awardsでは、日本のゲーム会社が開発したタイトルが、「ビジュアルとグラフィック部門」と「イノベーション部門」の2部門にノミネートされ、前者のビジュアルとグラフィック部門を受賞した。カプコンがM1、M2チップ搭載Mac向けに開発した「バイオハザード ヴィレッジ」が、それだ。
同タイトルは、「バイオハザード7」から約3年半後を舞台にした一人称視点のサバイバルホラーゲーム。2021年にPlayStation 4/5、Xbox Series X/S、Steamなどの家庭用ゲーム機向けとして発売されたのち、2022年にMシリーズのチップを搭載したMacへの移植が行われた。Macのゲーム対応の拡大や強化を打ち出しているAppleにとっても、「バイオハザード ヴィレッジ」はその象徴となるタイトルだったといえる。
今回、Apple Design Awardsの受賞にあたり、カプコンの規格戦略統括 マーケティング戦略部 部長兼プロデューサーの神田剛氏と、プログラマーの木本雅博氏、岩崎秀介氏の3人にグループインタビューを実施。同タイトルの開発エピソードやAppleのプラットフォームに対する期待をたずねるとともに、デベロッパーの視点で2023年のWWDCで発表された各種新機能の見どころを語ってもらった。
ビジュアルグラフィックスのクオリティーはチップの性能の高さと合わせて重視した
―― 昨年のWWDCで発表があり、その後のリリースになりました。一般的にMacはハイクオリティーなゲームとはあまり縁がなかったように思えますが、開発者にとって、Macでこのようなゲームを開発するうえでのインパクトが大きかった点を教えてください。
神田氏 昨年のWWDCで、弊社からバイオハザード ヴィレッジがMシリーズチップに対応することを発表しました。Mシリーズのチップの性能の高さがチャレンジに値すると考えたからです。もちろん、開発に関しては今も試行錯誤しながらではありますが、性能の高さや、クオリティーのパフォーマンスを上げていくことにはやりがいもあります。Mシリーズチップへの対応はエンジンチームも含めて対応しましたが、全体的には、すごく楽しんでやれたと思っています。
木本氏 Mシリーズのチップに関しては、CPU性能が非常に優れています。もともとモバイル向けのチップで、速度が出ることはあまり想定していなかったのですが、いざ移植してみると意外と出る。かつ、ユニファイドメモリも採用されています。(パフォーマンスを上げる上で)問題になるのがVRAM(グラフィックスメモリ)ですが、いろいろな機能をリッチに引き出すことができました。これはゲーム開発の上で有利になります。メモリを扱いやすく、処理がシンプルになる。また、(コンピュータグラフィックAPIの)「Metal 3」に「MetalFX Upscaling」という超解像技術があったことで、速度的に厳しい場面が見事に解決され、非常に素晴らしいグラフィックスが実現しました。
岩崎氏 最初に触って思ったのは、APIの使い方がコンソールゲーム機に近い形になっているということです。バイオハザード ヴィレッジは第9世代のマシンを見据えていましたが、そこから意外とそのままに近い形で持ってくることができました。もちろん、最適化はいろいろやっていますが、ツールがそろっていたので、どこが問題になるのかは分かりやすかったですね。
―― Appleから評価されDesign Awardsを受賞したのも、そういったグラフィックスやそこに対応した技術があったからということですね。
神田氏 今回は、ビジュアルとグラフィックス部門で賞をいただいたので、そういったところを評価していただけたのだと思います。バイオハザード ヴィレッジは、もともと第9世代のタイトルとして開発したものなので、クオリティーの担保、特にビジュアルグラフィックスのクオリティーはチップの性能の高さと合わせて重視しました。やはりホラーのタイトルなので、見た目やプレイフィールは重要ですが、今回はMacユーザーの方にもそれを感じていただけたのではないでしょうか。
iPad対応するとしたら、通常のMacとは違った調整も必要に
―― Mシリーズのチップならではのメリットのようなものはありましたか。
木本氏 通常のPCと比べると、Macは基本的に純正品だけで構成されています。統一されたハードウェアなので、チェックをしたときの問題が少ない。実際、リリース後の不具合も、PC版と比べると少なくできました。ただし、Macにはディスプレイやキーボードを外付けにする製品もあります。ここで純正を使っていないと、トラブルになるということはありました。そこだけはユーザー別のハードウェアを全て用意するのが難しいので、再現できない問題はありました。ただこれは、Apple製品の問題ではなく、グラフィックスとディスプレイの話ですが。
岩崎氏 ハードが統一されているというのは、ある意味で、コンソール機と同じです。
木本氏 このスペックで大丈夫というのが、本当にその通りにいける。テストをするハードウェアが限定されるので、最適化する場合でもそこ向けのチェックができます。さすがに通常のコンソール機とまったく同じとまではいきませんが、種類が少ないことは開発者にとって扱いやすいですね。
―― MシリーズのチップはMacだけでなく、iPad AirやiPad Proにも採用されています。こうしたプラットフォームの横展開は将来的に考えられるのでしょうか。逆に、iPad対応が難しい点もあれば教えてください。
神田氏 方針として、社長の辻本(春弘)が以前からマルチプラットフォーム戦略を打ち出していて、タイトル開発のベースになっています。今回のMシリーズチップ対応も、その方針は踏まえています。プラットフォーム展開を広げていける機会があれば、技術的な検証も含めて積極的に検討は進めていきたいですね。ユーザーベースの点では魅力的だと感じています。
木本氏 API的には、ちょっとだけ違う部分もあります。また、iPadはキーボードやマウスが最初からはついていない前提です。そこをユーザーにどう提供するのかといった課題はあります。また、(グラフィックスにパワーを使うゲームを動かすのは)消費電力が非常に大きいので、Macのようにケーブルにつないで使う状態との違いもあります。iPad対応するとしたら、通常のMacとは違った調整も必要になると思います。
―― iPhoneはチップもAシリーズなので、さすがにもっと難しいという理解でいいでしょうか。
神田氏 バイオハザード ヴィレッジのようなレベルのタイトルをサポートするのは、ちょっとキツイですね。モバイルデバイスに関しては、現状、そのデバイス特化して開発したものが基本になります。もちろん、今後のデバイスの性能向上には期待したいところですが。
木本氏 やはりAAAタイトル(開発規模の大きなゲーム)を出す場合、VRAMなどのメモリサイズが問題になります。iOSの場合、モバイルなので消費電力などの問題もあって、使用できるメモリが制限されています。AAAタイトルを十分なクオリティーで載せるには、まだ不足しています。ただ、これも今後、ハードウェアのスペックが上がってくると、対応することが可能になります。
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