※日経エンタテインメント! 2024年3月号の記事を再構成
2024年1月17日、22歳最後の日に、Novel Coreは日本武道館での単独公演で、彼のこれまでのストーリーを語り上げる素晴らしいステージを見せた。BMSGアーティストたちと共に客席にいたSKY-HIは、こぶしを上げ、歓声を上げ、時に涙を見せながら、Novel Coreを見守っていた。
17年のSKY-HIの武道館公演を見てこのステージに立つことを夢見たNovel Coreは、20年、「才能を殺さない」を掲げたBMSGの第1弾アーティストとして契約。以降、2人は「夢」に向かって1つひとつ積み重ねてきた。今回の取材は、武道館公演の約10時間後。興奮が残るなかでの心境を聞いた。
最初は「自分も(武道館の)ステージに立つのかな」と思っていたんですよ。でも、コア(Novel Core)が「今回は出ないで、(客席で)見て」って(笑)。せっかく見る側ならと、演出もセットリストも事前に知らないまま見せてもらいました。ライブ前には誕生日プレゼントと武道館公演のお祝いを兼ねて大きめのプレゼントを1つあげたかったので裏に行ったけど、コア自身が培ってきた信頼があるからチーム全体に不安も全く感じなかったし、こういうときのコアは強いから好き勝手にやってくれるだろうなと楽しみでした。
コアが武道館のステージに現れた瞬間は、BMSG設立当初の目標が1つ達成したわけです。ライブが始まった瞬間にあれほど達成感を感じることもなかなかない経験でした。終始、シンプルにワクワクして見ていましたが、ライブを見ながらいろいろなことを思い出しましたね。
3年前のコアと自分にとっては、「3年後に武道館」ということが決定事項としてありました。何しろコアが武道館に対して尋常ではないほどの思い入れがあり、自分も「それは絶対できる」と答えました。でもそれは、コアが僕を説得したのではなく、シンプルにその夢がとても現実的なものに思えたから。なので、僕らは当たり前のように「武道館に立つまでに、こういう部分が足りないからこうしよう」を繰り返してきました。昨晩は、「夢を追いかけるという夢の中にずっといたんだな」と改めて気づいた感がありました。
自分はずっと「夢を見る」などといった「きれいごと」の大切さを強く感じています。子どもの頃は誰しもがコアのように大きな夢を見るけれど、徐々にどこかで夢を見られなくなっていくと思うんです。また、夢があったとしても必ずしもかなうわけではありません。それに、1つ大きな目標がかなったからといって、それが結果として幸せかどうかも分かりません。
ただ、「かなわない」という結果よりも、「ひょっとしたらかなわないかもしれない」と思ってしまい夢を追いかける力を濁らせてしまうこと、夢を信じて振り切れないことのほうが良くない。悔いも残るし、逃げ道を作ったうえでの失敗からは学べることも少ないし、そもそもの夢がかなう確率も極端に下がります。
夢をかなえる可能性を上げる方法って、まず1歩目として必要なのは、夢がかなうと強く信じることだと思います。本気で信じて達成した自分の姿をイメージできれば、夢への導線や必要な努力が明確に浮かんでくるから、それに対して取り組んでいく。それ以上にないと思います。ほかの人から見たら荒唐無稽に思われるようなことだとしても、自分がそれを信じられるなら可能性は必ずあります。
絶対に必要だったコアの成功
コアは、そこだけはずっとぶれなかったので、苦しむことは多かったとしても、夢を見失ったり、諦めることもない。自分も同じくですし、コアが信じていることに対して疑う余地はなかったので、コアがやりたいって言ったことに関してはどんなことでも全面的にバックアップすることにためらいはなかったし、怖さもなかったです。
コアに純粋に夢を見続けさせられたことと、それをかなえるところまで一緒に踏ん張れたことは本当に尊い経験でした。ものすごく苦しくなったら夢を諦めてしまえば楽ですし、その生き方も正解の1つだと思いますが、僕らはずっと夢を追いかけてきました。かと言って、歯を食いしばり唇をかみしめながら進んできたわけではなく、振り返ってみれば泣いたり笑ったり、ずっと楽しかった3年間でした。
夢を持ち、そこに向かって頑張って、それをかなえるって、言葉にすると簡単ですが、ものすごく大変なことは僕自身もすごく強く分かっているけれども、その尊さを他人の姿から感じる機会はそうそうありません。今感じている「うれしさ」は、尊さを感じられたことに対してなのかもしれないと思います。
今回、Novel CoreがBMSG設立時からの「夢」であった武道館公演を成功させ、さらには自身の“ヒーロー”と語っていたSKY-HIのもとで『HERO』という楽曲をリリースした。その中には、自らも次世代を引っ張っていこうという意志も感じられる。
SKY-HIは、「これからは(武道館に行くという必達目標への責任を全うして)普通にコアのライブを見られると思うと、楽しみですね」と笑っていたが、明らかに次のステップに上っていく彼を目の当たりにしている今、「BMSGの1人目のアーティストだった意味」が、また明確に証明されたようにも見える。
自分とコアの関係性っていうのは、BMSGの中でも特殊ですよね。レーベルを立ち上げる際、何もないところに最初に来てくれたアーティストですから。その人が成功するかどうかは、自分自身の人間としての様々な信頼にもつながってくる大事なことだと思いました。「1人目のアーティストはNovel Coreだ」と思った目利きもそうですし、プロダクションの社長としての信頼もそうですし。
この人だと思った才能を成長させることや少しずつ大きいステージに連れていくことは、どの芸能事務所の社長の仕事でもあるかもしれませんが、自分の場合はプロデュースを直接手掛けているぶん、「グループを作って売る」ほうに焦点が集まりやすいです。でも、「グループをしっかり売る」ことと「Novel Coreのような才能を埋もれさせない」ことは、やることも大きく違うし、後者はBMSGがBMSGであるために、本当に必要なことだったんです。
そういう意味では、今回のライブは本当にBMSGにとって大きな出来事でしたから、「うれしかった」とは言いましたが、コアの武道館公演を見終わった後は、自分がライブをしたくらいにヘロヘロに疲れた感じもありましたね(笑)。でも、本当に素晴らしいし、筆舌に尽くしがたいですね。筆舌に尽くしがたいって、口に出すと気持ちいい音ですね!
コアに限らずソロアーティストみんなに言える話ではありますが、コアにとっての武道館が「立たされたステージ」であっては絶対にいけないし、例えば僕が曲作りだったり、ライブの演出やセットリストだったりという〝アーティスト実務〟に介入することもない。アドバイスや各種フィードバックはしますが、決めるのは全て本人。本人の意志以外のものが介在すべきではないんです。そうした〝大人の思惑〟が含まれていると、見ている方々に伝わりますし、特に若い世代の方は無意識かもしれませんが敏感に嗅ぎ取ります。
ただ、もちろん大人の自分の立場から見て「こうしたほうがいいのにな」と思うこともあり、そんなときに悩んだ局面は、特にコアの場合、少なくなかった3年間だったようにも思います。具体的には、もう武道館も終わったので、いつかコアが自分で話すかもしれませんが、強く覚えている大きなピンチは、2回。1回目は、『THANKS,ALL MY TEARS』(21年)をリリースする3カ月ほど前で、コアがプレッシャーや不安を抱えていたとき。このときはコアが言い出してくれて、休んでもらいました。あともう1回は内緒です(笑)。
もちろん、普段からコミュニケーションの量は多いので細かいことはその都度ありますが、僕にとって、コアが作った曲を聴かせてくれたり、何かを見せてくれたりは全てこのうえない喜びなんです。だから、「良かったね、次はこうしよう」「あれやってみよう」といった、クリエーティブに関する前向きな話が自然と多いように思います。
ソロアーティストが持つ可能性
自分がソロアーティストとして活動しているから見えることもある一方で、自分がステージに立つ意味だったり自分のバックボーンだったりの全てを彼らに作ってもらっている感もあります。例えばステージに立つときは彼らが見ていることを意識してパフォーマンスしてきた数年間でしたし、それこそ「背中を見せる」ですよね。一方で、「背中を作ってもらってきた」という気持ちも大きいです。そうした相互作用なんだなと思います。音楽的影響も、みんなに与えるものとみんなから学んだりもらったりしているものだと、分量は同じくらいだと思っています。自分がいたからコアがこのタイミングで武道館に立てたとも言えるけど、コアがいたから武道館に立つアーティストを輩出できたとも言える。どちらが先でも後でもない。出会いってそんなものかもしれないですね。
今後のコアに関しては、いろいろ計画していることがあります。ここに関しても僕の口から言うことではないので、コアを待っていただけますか。
「20代のうちにドーム」は、言っていいのかな。(BMSG設立を発表したオンラインライブ)「実家ワンマン」(20年9月26日)の後、自宅に帰ってから俺とコアと、当時からBMSGに応援と期待をくれていたちゃんみなと3人で話をしたんですよ。そのときにその話になりました。コアの場合、30歳になるまでまだ丸7年あるので一緒に頑張りたいです。
あと、これは僕から言っていいと思いますが、SKY-HI、Novel Core、Aile The Shota、edhiii boi、REIKOと、ソロアーティストが本当に全員準備ができたと感じているので、みんなでなにかやりたいなと。うちのソロアーティストが並ぶと、単純に全員のキャラクターがバラバラで面白すぎて(笑)。このキャラの面白さとクリエーティブとクオリティーのレベルは、もっと押し出して形に残すべきだし、それは結果として、世界に誇れるものになるんじゃないかなという感覚があります。「ボーイバンドが世界に出ていく」っていう恐らく皆さんが想像しているストーリーとは全く別に、大きな可能性を感じています。ソロアーティストが好き勝手に持ってるアートフォームをフルで出すことは、グローバルヒットの可能性も上がるなと最近の音楽シーンを見ていても思うし、個々の強みが違うぶん、化学反応や作品の転がり方の可能性も広がるというか…いろいろ勝算みたいなものもあるんですよ。でもそれ以上に、純粋にワクワクする気持ちが止められない、というのが正しいかもしれないですね。
SKY-HI(日高光啓)
1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなどとして、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビューし、同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任
『マネジメントのはなし。』 SKY-HI・著
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる“ドキュメンタリー本”
課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊
今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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