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Thursday, March 7, 2024

2024年度改定はケアマネの一大分岐点。 専門性が揺らぎかねない状況に着目を - ケアマネタイムス - ケアマネドットコム

2024年度の居宅介護支援に関する改定では、逓減制のさらなる緩和や予防支援の担当上限算定の変更などで、ケアマネ1人あたりの件数がどうなるかが気になります。各種加算や居宅サービス側や診療報酬側の改定なども含め、ケアマネにとって「隠れた業務負担」が生じやすいことにも注意が必要です。

収益増に向けた事業者選択は広がったが…

今改定では、居宅介護支援および予防支援の基本報酬が上がり、特定事業所加算も引き上げとなりました。情報提供の日数短縮化というハードルはあるものの、入院時情報連携加算の単位もアップしています。

こうした中で、「(要支援者も含めて)利用者を集めることさえできれば、収益増を図る選択肢は広がる」と考える事業者も出てくるでしょう。もちろん、サ高住や住宅型有料等の併設による「囲い込み」を防ぐために、同一建物減算も導入されました。ただし、逓減制のさらなる緩和などに対応することで、カバーできると考えかもしれません。

この場合に問題となりがちなのは、ケアマネ1人あたりの実務負担によるリスクがきちんと計算できているかという点です。今改定では、依然として居宅ケアマネは処遇改善加算の対象になっていません。つまり、事業所全体の収益増を図ることで、ケアマネの処遇改善を実現せざるを得ないわけです。

「収益増」と「現場の実務負担」のバランス

地域によって、ケアマネ不足はますます深刻です。居宅ケアマネ自体の総数もさることながら、地域区分と実態経済の乖離や、財政的に余裕のある自治体による独自の補助金などにより、「居宅ケアマネ数の地域格差」は大きく広がりつつあります。

そうなると、事業者としては「ケアマネ1人あたりの実務負担」と「賃金増にあてる収益」のバランスをいかにとるかという点に、頭を悩ますことになるでしょう。

そうした経営的なシミュレーションを行なう場合、注意しなければならないのは、現場のケアマネの実務負担を左右するのは「担当利用者の数」だけではないという点です。

たとえば、居宅ケアマネには、多機関多職種から寄せられる情報が、報酬改定のたびに増えています。通所・訪問リハビリのリハビリ・マネジメント加算に始まり、通所介護の栄養アセスメント加算にかかる低栄養リスクの利用者にかかる情報なども加わります。

そして、2024年度改定では訪問系サービスに「口腔連携強化加算」が誕生しました。訪問現場における利用者の口腔衛生の状態把握を評価したものですが、把握した情報もケアマネに伝えられることになっています。

「隠れた負担増」にも注意することが必要

ここに主治医や薬剤師などからの情報も、地域ネットワークのICT化によって続々と加わってきます。そうした時代において、多様な情報を整理・統合しつつ、どのようにケアプランに反映させていくかといった課題分析の力量がますます問われます。

事業所のケアマネ全体で、そうした力量を高めるとなれば、一定経験のあるケアマネにとって、後進を育成するための指導力などもさらに必要となるでしょう。新人ケアマネからの日々の相談も増える可能性があり、そのあたりは「隠れた負担増」となりそうです。

さらに、介護予防支援の指定を直接受ける事業所が増えるとなった時、今までの「包括からの委託」とは事情が異なってくることも想定しなければなりません。予防支援の指定事業者となった場合に、保険者によるアセスメントやケアプランのチェックが厳しくなることが制度上でも明らかです。

「予防支援のプランなど簡単にできる」と考えている事業者はないでしょうが、「とにかく要支援段階から顧客を集める」という方針だけが強まると、ベテランを中心としたケアマネのオーバーワークが生じかねません。その結果、組織全体としてのケアマネジメントの質が大きく低下する恐れも出てきます。

自己実現の喪失に直面するケアマネも?

ケアマネのモチベーション低下をもたらすのは、「業務負担と処遇のアンバランス」もさることながら、「ケアマネとしての自己実現の喪失」という問題もあります。

たとえば、「地域連携の中でケアマネとしての役割を果たし切れない」とか「後進をきちんと育てる余裕がない」という感覚が高まったとします。その結果、上記のように「事業所としてのケアマネジメントの質が低下する」という状況が生じれば、「自分は何のためにケアマネをやっているのか」という自責の念を高めるケアマネも増える恐れがあります。

そうなれば、事業所は増収なのに、現場のケアマネが離脱していくという状況も生じかねません。こうした課題は、ICT等による業務効率化を進めるだけで解決できる問題ではなく、事業者が現場のケアマネの専門性をいかに尊重できるかにかかわってきます。「ケアマネ=営業」として見るしかできない事業所は、どんなに増収・増益になっても、いずれは撤退リスクを背負うことになるでしょう。

気になるのは、厚労省の介護報酬改定検証・研究委員会で、今改定をめぐる「ケアマネの意識・働き方」に関する調査案がまったく上がっていないことです。地域包括ケアシステムの推進をかかげる立場として、問題意識が浅すぎるのではないかと思われてなりません。今、居宅ケアマネの行く道は、大きな分岐点に差しかかっているという認識が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。

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