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Saturday, November 20, 2021

【園長は獣医さん】ホッキョクグマの出産に必要な暗闇と静寂 - 産経ニュース

昼寝をするホッキョクグマのホウちゃん(左)と母親のイッちゃん(天王寺動物園提供)
昼寝をするホッキョクグマのホウちゃん(左)と母親のイッちゃん(天王寺動物園提供)

サイ舎の周りのピラカンサの実が赤く色づいて、ひと際目立っています。

11月25日は、ホッキョクグマの人気者ホウちゃんの1歳の誕生日です。今回は、ホッキョクグマの繁殖についてです。

動物園の役割の一つは種の保存であり、希少動物の域外保全に貢献し、次代につないでいくこと。実は天王寺動物園は、ホッキョクグマの飼育で90年近い歴史をもち、国内動物園の中でも豊富な繁殖実績を有しています。

極寒の北極圏を生息域とするホッキョクグマ。基本は群れを作らず、メスは出産が近くなると穴を掘って単独で巣ごもりし、外部との接触を絶ちます。出産で絶対に必要な条件は、暗闇と静寂。北極圏なら可能なこの環境を街中の動物園でいかに作るかがポイントになります。

かつて勤務していた札幌市の円山動物園では、作業員通路の壁や天井、床までをグラスウールで覆い、音と光をシャットアウトした産室を用意しました。深夜に除雪車が通るだけでもその振動や音に敏感に反応するため、来園者も含め通行禁止にしました。そして無事出産。このときは赤外線サーモカメラで撮影に成功し、今も良い思い出です。

大阪有数の繁華街の新世界に位置する天王寺動物園は、近くに阪神高速道路やJRなどの鉄道が通り、都会の雑踏の真っただ中です。ホウちゃんが生まれたときは、目の前のサル山の解体工事が行われていました。暗闇と静寂とは無縁のようにみえますが、昭和61年に当時のペアが繁殖して以来、これまで15頭が産まれ、6頭が無事に成育しています。かなり高い成績です。

天王寺動物園の繁殖環境とその実績の関係は、はっきりした理由は難しいですが、交通関係で発生する音は比較的、規則性があり、突然起こる騒音に比べると慣れやすいのではないかと推測しています。

また、繁殖にはハード面の整備のほか飼育面でのノウハウも必要です。オスとメスの相性を見極めたマッチング、オスとの分離、メスの給餌量の増加、産室への閉じ込めなど普段からの観察力が鍵を握ります。

ホッキョクグマのバックヤードには小高く盛った人工の丘が作られ、その中に寝室と産室があります。自然の断熱構造で、音や光も遮断します。原形は戦前(昭和8年)に作られました。

設備や飼育員の観察力など90年積み上げられたノウハウが実績につながっているといえそうです。

天王寺動物園園長(理事兼務)獣医師 向井猛

【略歴】むかい・たけし 神奈川県藤沢市出身。北海道大大学院獣医学研究科修士課程修了後、札幌市の円山動物園で獣医や職員として勤務した。今年4月から天王寺動物園園長。漫画『動物のお医者さん』に「M山動物園の向田獣医」として登場した。

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