Pages

Tuesday, June 8, 2021

出向・転籍の進め方 必要な手続き、人事的な配慮、助成金制度など解説 - ITmedia

 コロナ禍により事業の再編が行われ、それに伴って中小企業でも出向・転籍が増えています。出向・転籍について確認し、必要な手続き、人事的な配慮、助成金制度などについて解説します。

企業実務とは?

Photo

 「企業実務」は、経理・総務・人事部門の抱える課題を解決する月刊誌。仕事を進める上で必要な実務情報や具体的な処理の仕方を正確に、分かりやすく、タイムリーにお届けします。1962年の創刊以来、理論より実践を重んじ、“すぐに役立つ専門誌”として事務部門の業務を全面的にバックアップ。定期購読はこちら

 本記事は、2021年6月号に掲載された「中小企業でも増えている 出向・転籍に関する実務を確認する」を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集し、転載したものです。


 出向とは、会社間で労働者を移動させることをいいます。コロナ禍では業務量が増加する業種と、業務量が減少する業種とで二極化したこともあり、業務量が減少した業種から業務量が増加した業種への人材の移行の手段として出向への注目が集まっています。

 出向には現在の所属先に籍を置いたまま別の会社で働く在籍出向と、所属先を現在の会社から出向先の会社に変更する移籍出向の2つがあります。両者は同じ出向であっても、労務管理の際に注意すべき点はかなり異なります。

 また、世間一般では在籍出向については単に出向、後者の移籍出向は転籍と呼ぶことが多いため、本稿でも在籍出向のことを出向、移籍出向のことを転籍としていきます。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

出向を行う際の労務上の注意点

(1)出向労働者の同意と出向規定

 出向では、現在の所属先に籍を置いたまま別の会社で働くことになりますが、同じ会社内での異動とは異なり、勤務先の変更を伴うため、賃金などの労働条件、キャリア、雇用などの面で不利益が生じやすくなります。

 そのため、出向を行う場合、基本的には労働者の同意が必要です。ただし、密接な関連会社間の日常的な出向であって、出向に関する包括的な規定が定められている場合はこの限りではありません。密接な関連会社間の出向で、労働者の同意を不要とするための規定には最低限、以下の内容を定めておく必要があります。

  • 出向先での賃金・労働条件
  • 出向の期間
  • 復帰の仕方 など

(2)出向元と出向先の責任の配分

 出向において出向労働者は、出向元と出向先で二重の労働契約を結ぶことになります。

 その関係上、出向労働者の労務については、出向元と出向先の会社のどちらが、何について、どの程度責任を負うのか、という部分が問題となってきます。

 また、過去の通達では「出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある」としています。

 つまり、労働基準法等の適用についても、出向元と出向先の責任の配分によって、その適用の範囲等が変わってきます。そのため、出向元と出向先で締結する出向契約においては、出向期間などのほかに、出向労働者に対するこうした責任についても会社間で明確化しておく必要があります。

 厚生労働省が発行している『在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック』では、出向元と出向先の出向契約において定めておくべき事項として以下のものを挙げていますので、出向を行う際はこれを参考に、出向元と出向先の責任の配分を話し合うとよいでしょう。

  • 出向期間
  • 職務内容、職位、勤務場所
  • 就業時間、休憩時間
  • 休日、休暇
  • 出向負担金、通勤手当、時間外手当、その他手当の負担
  • 出張旅費
  • 社会保険・労働保険
  • 福利厚生の取扱い
  • 勤務状況の報告
  • 人事考課
  • 守秘義務
  • 損害の賠償
  • 途中解約
  • その他(特記事項)

 出向契約に明確な定めがない部分の責任の配分については、解雇権や復帰命令権など出向労働者の地位に関しては出向元が、労務提供請求権や指揮命令権など出向労働者の就労に関しては出向先が負うのが合理的とされています。

(3)出向労働者の賃金と保険料負担

 会社間の出向契約において重要となるのが、出向労働者の賃金の扱いです。特にその支払方法については、会社間の取り決めによってさまざまな形が取られており、「出向元が支払う」「出向先が支払う」「出向元と出向先の両方が別々に支払う」のほか、賃金自体は出向先が支払うものの、それと同額を出向元が出向先に支払うことで実質的に出向元が出向労働者の人件費を負担する、といった形もよくみられます。このように、出向労働者への賃金の支払方法については、会社間で自由に決めることができます。

 その一方で、出向労働者の賃金で注意しないといけないのが、社会保険や労働保険の保険料です。

 特に、社会保険に関しては、実際に賃金を支払っている会社で社会保険に加入し、保険料もその会社で負担をすることになりますが、賃金を出向元と出向先で別々に支払っている場合、将来の年金等で労働者が不利となる場合があります。

 出向労働者が出向元と出向先の両方で社会保険に加入している場合、出向元と出向先の賃金額を合算した額を元に保険料を計算、保険料負担に関してはそれぞれで支払っている賃金額を元に保険料を按分(あんぶん)して支払うことになります。

 しかし、出向労働者がどちらかの会社で社会保険に加入していない場合、社会保険に加入しているほうでしか保険料を納められません。そのため、出向元と出向先、いずれかでしか社会保険に加入できない場合で、出向元と出向先が賃金を別々に支払うと、納める保険料が本来納めるべき額よりも低くなってしまい、将来の年金額等に影響が出てしまいます。

 また、雇用保険に関しても、出向元と出向先で別々に賃金を支払っている場合、社会保険と同様の問題が発生します。

 雇用保険も社会保険と同様、保険加入と保険料負担は実際に賃金を支払っている会社で行うからです。しかも、雇用保険は、そもそも複数の事業所で加入することができません。

 雇用保険の給付は、雇用保険に加入していた会社での在職中の賃金額によって金額が決まるため、出向元と出向先で賃金を別々に支払っていると、雇用保険からの各種給付の金額が、本来もらえた額より少なくなってしまうのです。

 ちなみに、出向元と出向先で賃金を別々に支払う場合、出向労働者の雇用保険の加入先は、より賃金額の大きいほうとなります。

 労災保険の保険料に関しては、賃金を支払うのがどちらの会社であっても、基本的に出向先が負担することになります。これは出向労働者の安全配慮義務を負うのが出向先であるためです。

 このように、出向労働者の賃金の支払方法については、公的保険の加入や保険料負担の面からも考える必要があります。少なくとも、保険だけを見るなら出向元か出向先のどちらかに給与の支払いを集約するほうが合理的です。

 また、保険料負担以外の最低賃金や割増賃金などの賃金に関する法的責任は、基本的に給与を支払う側が負うことになります。

転籍を行う際の注意点

 転籍では、現在所属している会社と労働契約を終了し、転籍先の会社と労働契約を結ぶことになります。しかし、労働者の合意なく労働契約を終了すると、たとえそれが転籍のためであっても、それは解雇となります。

 そのため、労働者の意向を確認せず、会社主導の転籍が原因で労使間の争いとなった場合、会社が不利な立場に置かれる可能性が高まります。転籍の実施の際は、労働者の同意を得るのは、ほぼ必須となります。

 労働者の同意が必要なのは出向の場合も同様ですが、もともと在籍した会社と労働契約がなくなる分、転籍のほうが労働者の同意は得にくくなるため、対応はより慎重に行う必要があります。

 また、転籍では労働契約の終了を伴う関係上、退職金の扱いについてもあらかじめ決めておく必要があります。シンプルなのは転籍の際に退職金を支払う方法ですが、関連会社への転籍などの場合、転籍先をやめた時点で退職金を支払うこともあります。

 こうした退職金に関する扱いに関しては、先ほどの転籍に関する労働者の同意と併せて対応を考えたいところです。具体的には、転籍の同意を得やすくするために退職金を上積みするなどの対応です。

 このように、実施の際のハードルは、出向よりも転籍のほうが高いといえます。

 その一方で、転籍後については、転籍者の労務管理や賃金、保険料の支払い等は、基本的に全て転籍先の会社の責任により行われるため、転籍者に関する権利義務は、非常にシンプルなものとなります。

産業雇用安定助成金を活用する

 コロナ禍で出向のニーズが高まっていることから、厚生労働省はより出向に特化した助成金として令和3年2月、産業雇用安定助成金を創設しました。

 本助成金は「新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主」を対象とし、こうした事業主が「在籍出向により労働者の雇用を維持する場合」に「出向元と出向先の双方の事業主に対して、その出向に要した賃金や経費の一部」を助成するものです。

 本助成金は、従来の出向に関する助成金(雇用調整助成金等)と比較して出向元の事業主だけでなく、出向先の事業主も助成金の対象となるなど、助成がかなり手厚くなっています。

(1)本助成金の対象となる事業主・出向・出向労働者

 本助成金は「新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小」つまり、新型コロナにより一時的に売上が落ちたため、労働者を出向させる事業主(出向元事業主)と、それを受け入れる事業主(出向先事業主)を対象としています。

 また、新型コロナに伴う経済上の理由とは、具体的には以下のようなものをいいます。

  • 観光客のキャンセルが相次いだことによる売上減
  • 市民活動が自粛されたことによる売上減
  • 行政から営業自粛要請を受け休業したことによる売上減 など

 一方で、例年繰り返される季節的変動による売上減少や、事故または災害により施設または設備が被害を受けたことによる売上減少、法令違反等による処分によって事業活動ができず売上が減少した場合など、新型コロナと関連のない理由で売上が減少した事業主(および、その事業主からの出向を受け入れる事業主)は対象となりません。

 次に、本助成金の支給対象となる「出向」は以下の通りです。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向であること
  • 出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提としていること
  • 出向元と出向先が、親会社と子会社の出向でないことや代表取締役が同一人物である企業間の出向でないことなど、資本的・経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められること
  • 出向先で別の人を離職させるなど、玉突き出向を行っていないこと など

 前述の通り、ここでいう「出向」とは在籍出向のことであり、転籍は含まれません。また、親会社から子会社への出向といった関連会社間の出向も、本助成金の対象にはなりません。

 最後に本助成金の支給対象となる「出向労働者」については「出向元事業所において雇用される雇用保険の被保険者であって、本助成金の支給対象となる『出向』を行った労働者」がそれに当たります。

 ただし、図表1の労働者は、本助成金の対象とはなりません。

photo 図表1

(2)助成金の助成率・助成額

 本助成金には出向にかかる初期費用を負担するもの(出向初期経費)と、出向の運営にかかる費用を負担するもの(出向運営経費)とがあります。

 本助成金の柱となる出向運営経費については、主に出向労働者の賃金に対して行われます。また、賃金以外の教育訓練および労務管理に関する調整経費が発生する場合、その分も含めて助成が行われます。

 そして、こうした助成は出向元・出向先が負担したそれぞれの費用に対して行われます。

 出向運営経費に関する本助成金の助成率や限度額は図表2の通りです。

photo 図表2

 例えば、出向期間中の1日の賃金額が9000円の出向労働者に関して、出向元の賃金負担が3600円、出向先の賃金負担が5400円という場合、それぞれの賃金額の10分の9、つまり、出向元は3,240円、出向先は4860円が助成の対象となります(出向元・出向先ともに中小企業で、出向元が解雇等を行っていない場合)。加えて、この例において、賃金のほかに、出向先で教育訓練および労務管理に関する調整経費に3000円がかかっている場合、この3000円の10分の9の2700円も助成の対象となります。

photo 図表3

 出向初期経費に関しては、出向に際して出向者が使う機器を購入したり、出向元や出向先で就業規則等の整備等を行った場合にその費用を助成するもので、助成額は図表4の通りとなります。

photo 図表4

著者紹介:川嶋 英明(かわしま・ひであき)

社会保険労務士川嶋事務所/社会保険労務士。2013年1月社会保険労務士川嶋事務所開業。会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成を得意分野とする。ブログ等で積極的に情報発信等を行っている。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 出向・転籍の進め方 必要な手続き、人事的な配慮、助成金制度など解説 - ITmedia )
https://ift.tt/2TdLtG5

No comments:

Post a Comment