1 「振り逃げ」による刊行
一般向けに自由貿易のメリットとデメリットを解説するという、本書の企画が最初に持ち上がったとき、日本では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の是非の議論が盛んに行われていた。普段は影が薄い貿易が一躍脚光を浴び、TPPに反対する書籍が多数出版されるなか、本書はそのアンチテーゼとなるはずだった。しかし、執筆が進まないうちにTPP締結は合意され、人々の興味も薄れていった。まずはワンストライクである。 2017年になり、トランプ大統領が米国で誕生し、TPPからの米国の離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し、一方的な関税の引き上げなど保護主義的な措置が多く発動された。それに端を発して米中貿易戦争が勃発し、世界の自由貿易体制は大きな危機に直面することとなった。本書を出版し、多くの人に貿易理論の教義を広める、絶好のチャンスであった。しかし、筆者の周囲で不測の事態が生じたこともあり、またしても好機を逸してしまう。ど真ん中のホームランボールを見逃し、ツーストライク。 2019年末、米中貿易戦争は少し落ち着いたものの、本書の意義はまだあると考え、原稿の最終的なとりまとめをしていた。いよいよ出版間近、ヒットではなくとも、フォアボールでの出塁といったところである。ところが、2020年に入り新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が世界を直撃し、もはや「自由貿易か保護貿易か」などと言ってはいられない状況となった。時は得難くして失い易し。予想外の変化球により、スリーストライクで三振である。しかし、期待を大きく裏切ったにも関わらず、編集者の渡部一樹さんをはじめ有斐閣の方々は私に刊行のチャンスを引き続き与えてくれた。そのご厚意に、深く感謝する次第である。かくして、本書は三振後の「振り逃げ」により、ようやく刊行に至った。
2 COVID-19の蔓延と貿易
しかし、こういう状況だからこそ、自由貿易の必要性を冷静に考える必要があるともいえる。COVID-19の感染者の拡大、そして都市封鎖や移動規制などのロックダウンは、ヒトやモノの流れを大きく変化させ、貿易も例外なく影響を受けた。 本書には含められなかったが、筆者自身も、日本貿易振興機構・アジア経済研究所の早川和伸氏とともに、COVID-19が貿易に与える影響の分析を行っている。2009年の世界金融危機の際にも、世界貿易は一時的に大きく停滞した。しかし、その際の貿易の減少は主に需要が減退するショックに起因しており、その後の回復も早かった。しかし、COVID-19の場合は需要ショックに加えて、モノが生産できない、必要な部品・材料が調達できないという供給ショックも世界中で同時多発的に生じており、より大きな影響を与えると考えられる。 我々の分析結果によれば、COVID-19の蔓延は、前年と比較して2020年の第1四半期の日本の輸出を約109億ドル(5.7%)減少させ、輸入を約115億ドル(6.4%)減少させる影響があった。米国はCOVID-19による減少額がより大きく、輸出と輸入をそれぞれ381億ドル(9.8%)と430億ドル(7.2%)減少させた。中国においては、減少額は輸出と輸入についてそれぞれ639億ドル(9.8%)と300億ドル(6.3%)であった。なかでも輸出国での感染拡大、特に途上国での感染拡大が貿易を大きく減少させており、需要ショックよりも供給ショックがより重要であることが示唆されている。 こうした貿易の突然かつ急激な減少は、「医療安全保障」という言葉に代表されるように、重要品目の輸入依存に警鐘を鳴らすものである。いつもなら当たり前に手に入るマスクや医療品が外国から届かなくなり、国内で不足する。我々は、それまでは当たり前にあった貿易が、突如ストップするかもしれないことを、目の当たりにしたのである。一方で、逆に国内生産に依存すぎると、国内で供給がストップするリスクに対応できなくなる。むしろ、各国が輸出規制などにより重要品目を囲い込まないよう、自由な貿易体制を保つことも、「安全保障」の面からは重要となる。今回のCOVID-19の蔓延により、貿易に頼ることのリスクを感じた人もいれば、貿易の重要性を認識した人もいるであろう。経済取引の重要性が意識される今こそ、自由貿易の必要性を冷静に再検討し、危機に強靱な経済体制を構築するきっかけにするべきではないだろうか。
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September 22, 2020 at 04:30AM
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『自由貿易はなぜ必要なのか』の刊行はなぜ必要なのか(レビュー)(Book Bang) - Yahoo!ニュース
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