近年中国メーカーが台頭する中、意外かもしれないが、Intelは昔から小型デスクトップPCに積極的だったメーカーの1つである。「NUC」(Next Unit of Computing)というブランドを立ち上げ、CPUの世代が進化するたびに、手のひらサイズの小型デスクトップPCを市場に投入し、牽引してきたからだ。
今回紹介するのは、そうしたIntelのノートPC向け第13世代Coreシリーズを搭載する最新のNUC「NUC 13 Pro」シリーズだ。一昔前と比べると強力なライバルが続々と登場する状況で、古豪NUCブランドの存在感を示すことができるのか。Core i7-1360Pを搭載する薄型モデルをさまざまな角度から検証し、その実力を確かめてみたい。
最新鋭の第13世代Coreを搭載。インターフェイスも充実
NUC 13 Proでは基本スペックや筐体のタイプが異なるいくつかのモデルを用意している。また、自社製の小型PCをラインアップしたいパーツショップや、好きなスペックで自分なりの小型PCを作りたいユーザー向けに、ベアボーンキットも用意している。
今回試用したのは薄型筐体でCPUにはCore i7-1360Pを搭載し、32GBのメモリと512GBのSSDが組み込まれ、Windows 11がインストールされた「NUC 13 Pro Mini PC」という完成品タイプだ。検証用の機体なのでメモリの搭載容量が異なるが、型番を見ると「NUC13ANKi7」が一番近い。
メーカー | Intel |
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製品名 | NUC13ANKi7 |
OS | Windows 11 Pro |
CPU(コア/スレッド数) | Core i7-1360P(12コア16スレッド) |
搭載メモリ (空きスロット、最大) |
DDR4 SO-DIMM PC5-25600 16GB×2 (なし、64GB) |
ストレージ(インターフェイス) | 512GB(PCI Express 4.0) |
拡張ベイ | なし |
通信機能 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax、Bluetooth v5.3 |
主なインターフェイス | 2.5Gigabit Ethernet×1、HDMI×2、Thunderbolt 4×2、USB 3.1×3、USB 2.0×1 |
本体サイズ | 117×112×37mm |
重量 | 不明 |
実売価格 | 未定 |
搭載するCore i7-1360Pは、性能重視の「Performanceコア」(Pコア)が4基、効率重視の「Efficientコア」(Eコア)を8つ搭載し、PコアはHyper-Threading対応なので合計16スレッドに対応するノートPC向けのCPUである。型番の最後に「P」とあるモデルなので、性能重視の薄型モバイルノートPCで利用される。
メモリはPC4-25600対応のSO-DIMMメモリで、パーツショップなどで購入したメモリモジュールが利用できる。第13世代CoreシリーズではDDR5メモリにも対応するが、現状ではより低価格で入手性に優れるDDR4メモリを利用できる方が、ユーザーとしてはありがたいだろう。システムストレージはM.2スロットに組み込まれており、これも一般的なPCI Express 4.0対応のM.2対応SSDが利用できる。
幅は112mm、奥行きは117mmと、上から見るとほぼ正方形に近い。男性なら片手の上にすっぽりと収まるようなサイズ感である。2.5インチシャドウベイを装備しない薄型モデルであり、厚みは3.7cmだ。今まで検証してきた小型PCと似たようなサイズ感、というか流れ的には、小型PCがNUCを模しているということでもあるのだが。
ブラックを基調としたシンプルなデザインであり、コンパクトなので置き場所を選ばず利用できる。事務作業を中心としたシンプルなビジネスPCとして利用されることも想定しているのだろう。液晶ディスプレイの脇にちょこんと置くスペースがあれば問題なく利用できるし、VESAマウンタを使って背面に組み込む機能もある。
最新の第13世代Coreシリーズを搭載していることもあり、インターフェイスはかなり豪華だ。前面には2基のUSB 3.1ポートとヘッドセット用端子を装備。背面にはリフレッシュレート60Hzで4K解像度の出力に対応するHDMIを2基と2.5Gbps対応の有線LANポート、1基のUSB 3.1ポートのほか、Thunderbolt 4を2基装備する。
HDMIでマルチディスプレイ環境を作ってもいいし、USB Type-Cケーブルで映像入力できる液晶ディスプレイと組み合わせてもいいだろう。背面USBポートの数は少ないが、ポートの構成自体は高性能なモバイルノートPCやビデオカードを搭載しないデスクトップPCと比べて、劣るものではない。
付属するACアダプタは、120Wまで出力できるモデルだった。今回のNUC13ANKi7のコンパクトさを考えるとちょっと大きめだなとは感じるが、最新の高性能CPUを安全に利用するためには、仕方のないことなのだろう。
底面を固定する4つのネジを外すと、内部のメモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。前述した通り2280サイズのM.2スロットを搭載しており、システムドライブの容量を増やしたい場合は市販のM.2対応SSDを利用できる。
第13世代Coreの性能の高さを実感
一通り外観や内部の様子を見たところで、性能の検証に入ろう。現状の小型PCでは、第13世代Core iシリーズを搭載するモデルはほぼ存在しない。ノートPCに関しても発表はされているものの、市場では入手できないモデルが大半の状態だ。純粋にどのクラスの性能なのかということが分かりにくい状況にある。
今回は、従来の第12世代Coreシリーズを搭載した同じくNUCの「NUC12WSHi5」を比較対象とした。CPUに「Core i5-1240P」を搭載したベアボーンキットモデルで、検証結果はPC4-25600対応の8GBのメモリを2枚、そして1TBのPCI Express 4.0対応SSDを組み込んだ時のものだ。
Core i5-1240PではPコア4基/Eコア8基の構成で合計で16スレッドに対応する。今回試用したNUC13ANKi7に組み込まれたCore i7-1360PでもPコア4基/Eコア8基で合計16スレッドと、実はCPUコアの構成は同じだ。最大クロックの違いや内蔵GPUの性能差はあるものの、CPU部分の性能向上を検証しやすい。
またCore i5-1240Pは、非常に多くの高性能モバイルノートPCで搭載されており、そうしたモデルと比べた場合にどのくらい性能が向上しているのかが分かりやすい。
まずは日常的に利用されるアプリの使用感をScoreで計測できる「PCMark 10」の比較だ。Scoreが高い方が性能が高い。NUC13ANKi7では総合ScoreのExtended Scoreが5,000台半ばを大きく超えており、今まで検証してきた小型PCと比べるとトップレベルに性能が高い。またほかの項目でも軒並みNUC12WSHi5を超えており、CPUコア部分の進化がかなり大きいことが分かる。
次は3D描画性能を検証できる「3DMark」の結果を見てみよう。主に利用するDirectXのバージョンや描画負荷の異なるテストを用意しており、やはりScoreが高い方が性能が高い。
こちらでもNUC13ANKi7の性能の高さが際立っている。ただ先ほど紹介した通り、両者が搭載するCPUの内蔵GPUは実行ユニット数や動作クロックがかなり違うため、純粋にCPUの世代が進んだせいとも言い切れないところはあることには注意が必要だ。
最後に動画編集・エンコード用ソフトウェア「TMPGEnc Video Mastering Works 7」の処理時間を比較してみよう。マルチスレッド処理に対応し、最近の主流である多コアCPUのメリットが大きいアプリだ。処理時間が短いほど性能が高い。
これまでの結果と同じように、NUC13ANKi7の方が短い時間で処理を終えている。H.264/AVC形式への変換では約11%、H.265/HEVC形式への変換でも約10%エンコード時間が短縮されており、やはりここでもCPU性能の向上を感じられる。
いくつか実際のPCゲームもプレイしてみた。UBIソフトの「レインボーシックスシージ」は、プレイ人口が多いFPSゲームの中では描画負荷が低めで、ノートPCでプレイしているユーザーも珍しくないタイトルだ。ベンチマークテストではFPSが計測でき、数値が大きいほど性能が高い。
解像度をフルHD(1,920×1,080ドット)、グラフィックス設定を[最高]にしたときの平均FPSは56。全体を通してみると動きにカクつきを感じる場面もそれなりにあった。そこでグラフィックス設定を[中]にしてみると平均FPSは68に向上し、概ね快適にプレイできる。
もう1つは同じUBIソフトの「ファークライ6」だ。最近のPCゲームの中ではかなり描画負荷が高く、ビデオカードなしでは快適なプレイはほぼ不可能なタイトルと言ってよい。実際、グラフィックス設定を一番低い[低]にしても平均FPSは30で、プレイできるレベルではない。
動作音については、アイドル時や軽作業時は「サー」という軽い風切り音がするが、うるさいと感じるレベルではない。ベンチマークテストなど、負荷の高い作業に入ると音のレベルがちょっと上がる。今まで検証してきたIntelのNUCでもファンの音はそれなりに大きく、今回のNUC13ANKi7でもそうした以前のNUCと同じような感じだった。
3DMarkのStressTest(Time Spyを20回繰り返す)中の最高温度は91℃。またマルチスレッドで3DCGのレンダリングを行なう性能を計測できるベンチマークテスト「Cinebench R23」を実行中の最高温度は100℃に達しており、やはり小型PCの筐体に収まる程度の小さなCPUクーラーでは、完全に冷やしきるのは難しいようだ。
Cinebench R23の実行中の状況を見ると、テスト開始直後にPコアの動作クロックが4.3GHzまで上がり、そのタイミングでCPU温度も100℃に達する。しかしすぐに動作クロックは3.7GHzまで下がり、CPU温度も90℃前後に下がる。その後は85~90℃のCPU温度を維持しながら動作クロックが徐々に下がり、最終的に3.3GHz前後で推移するという感じだった。
最近のCPUらしく、CPU温度に合わせて動作クロックは自動で調整されている。計測したCPU温度は確かに高いが、危険な状況のまま動作し続けるわけではない。
引き続き小型PC市場で光を放ち続けるIntelのNUC
これまで見てきたとおり、NUC13ANKi7は弱点の少ない小型PCだ。小型筐体であるがゆえのポートの少なさ(特に背面のUSB 3.1は1基とかなり少ない)はあるが、Bluetoothや無線LAN対応の周辺機器を選んだり、USBハブを追加すれば対応は容易だ。拡張性も高く、システムストレージを交換していけば長く使い続けることも可能だろう。
冒頭でも述べたとおり、現状の小型PC市場では非常に多くのライバルがひしめき合う状態になっている。しかし第12世代のNUCと比べて順当な進化を遂げたNUC13ANKi7は、依然として小型PCムーブメントのトップランナーと言ってよいのではないだろうか。
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