
ケリー・ライカート監督映画「ウェンディ&ルーシー」
おすすめのエンタメ作品を紹介する矢部万紀子さんの連載、今回は映画「ウェンディ&ルーシー」です。日本では知る人ぞ知るアメリカ人女性ケリー・ライカ―ト監督の作品ですが、映画「ノマドランド」と比べて見えた、「素晴らしい年の取り方」を考えます。
知る人ぞ知るケリー監督の作品が上映中
シアター・イメージフォーラムという、渋谷の映画館に行きました。ケリー・ライカートというアメリカの女性監督の特集をしていて、過去作品4本が上映されているのです。最近、増えつつあると感じる女性の映画監督ですが、彼女は同世代だという紹介記事を読みました。これは行くしかないと即決、着いたら道に人があふれていて、始まったら満席でした。日本では初上映でしたが、知る人知る存在だったのですね。 私が見たのは、彼女の代表作とされる「ウェンディ&ルーシー」(2008年)です。ウェンディは若い女性で、ルーシーは中型犬。タイトルはのどかですが、描かれる世界は厳しいです。1人と1匹、古い車に寝泊まりしています。所持金はごく少なく、洗面はガソリンスタンドのトイレで。オレゴンの田舎町にいますが、そこは通過点。仕事がたくさんあるというアラスカを目指しているのです。 アラスカって、カナダのもっと北だよね? 仕事がたくさんあるって本当? 見ている方が心配になります。ウェンディは怪我でもしているのか、足首に包帯のようなものを巻いています。日に日に汚れていく様子が気がかりです。
迷子顔のウェンディとたくましいファーン
車で暮らす女性といえば、3月に紹介した「ノマドランド」と重なります。ですが、趣はだいぶ違います。「ノマドランド」のヒロイン・ファーンは61歳。「ホームレスでなくハウスレス」という彼女の言葉が、その心意気を示します。弱者を見捨てる社会に抗う気持ち、行く先々でお金を稼ぐたくましさ、両方を持っています。 ウェンディの年齢ははっきり描かれません。演じるミシェル・ウィリアムズは1980年生まれなので、制作された時は28歳です。ファーンに比べると、ウェンディはずっとふわふわしています。いつも迷子みたいな顔をしているのです。 ルーシーの餌が底をつきそうになると、缶拾いをします。でもほんの少ししか拾えません。次にしたのが、スーパーでの万引き。店員に捕まり、警察に連れて行かれます。罰金を支払ってスーパーに戻ると、つないでいたルーシーがいなくなっています。 実はそれより前に、車が動かなくなったのです。預けた修理工場に翌日行ってみると、エンジン全体がダメになっているから、廃車にした方が安上がりだと言われます。これとそっくりな状況が、「ノマドランド」でも描かれました。ファーンは姉に頼ることで、愛着ある車を救います。成功した夫がいる姉に、お金を出してもらったのです。 ウェンディにも姉がいます。携帯電話を持っていないので、公衆電話から連絡します。が、結局、車のことは言わないまま、電話を切ります。姉夫婦にもお金がないことを知っているからです。車は、手放す以外ありません。
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