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Saturday, May 15, 2021

ビジネスパーソンに必要な「抽象化する力」と「具体化する力」奥野一成・土井英司スペシャル対談(3) - ダイヤモンド・オンライン

4000億円を動かすカリスマファンドマネージャーである農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の最高投資責任者(CIO)・奥野一成氏が出版した『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』が話題になっている。
単なる子ども向けに投資の指南をした本かと思いきや、投資の本質やビジネスパーソンの生き方にまで迫る内容で、「大人こそ絶対に読むべき」という評判が立っているのだ。
日本屈指のビジネス書評家である「ビジネスブックマラソン」編集長・土井英司氏が、奥野氏の真意に迫るスペシャル対談、全3回。(構成/亀井史夫・ダイヤモンド社)

コロナによって変わったこと

土井英司(以下、土井) これは散々聞かれていることだと思うのですけど、今回のコロナが生んだ長期潮流って何だと思いますか。

奥野一成(以下、奥野) コロナによって長期潮流で何かが変わったことは、僕は一つもないと思っています。ただ、コロナによって、長期潮流が加速したことはある。例えば世界経済の経済成長率の鈍化ですね。世界経済って、ずっと成長してきたわけですけれど、明らかにコロナの前から鈍化していたんですよ。そして、コロナによってよりその鈍化のスピードが、鈍化のスピードが速くなるって変な言い方ですけど、もう年5%成長することは多分ないだろうという世界になっている。

土井 なるほどね。やっぱり日ごろから指標をウォッチするのが大切なんですね。

奥野 そうですね。そこを、しかも長く見るというのが大事ですね。それも10年じゃなくて、できれば20年、30年。大きな指標を長く見ておくというのは、すごく大事だと思います。世界経済が鈍化するというのは、もう実は随分前からわかっていた。例えば期間10年のアメリカの金利もそうですけれど、ずっと低下してきているんです。もう明らかにトレンドになっていた。それを定性的に説明すると、世界経済が成長してきたという背景には、それぞれの後進国が成長して先進国の仲間入りを果たすというプロセスがずっと続いてきたという事実があります。日本が後進国だったのが1960年代で、先進国の仲間入りをするとき、世界経済に貢献をした。その後、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や韓国がそれに続いて世界経済の成長を支えた。そして今は中国がまさに先進国化しようとしている。でも、中国が先進国化すると追加的な経済成長率は当然に逓減(ていげん)し、世界経済に対する成長の寄与はだんだん小さくなっていく。次はアフリカだと思うんですよ。アフリカが本当に成長するとき、世界経済はもう一回ブースターを付けることになると思います。

土井 まあ、そうですね。われわれはそれまで生きてないかもしれませんが、アフリカが成熟しきったらどうなるんだみたいなことを結構皆さん議論をされると思うんですけど、奥野さんはどんなふうにお考えですか。

奥野 アフリカが世界経済に影響するほどに成長し始めるのはまだまだ先だと思いますが、今はまさに、中国、インドなどのアジア諸国が急成長する中で起こる社会的な歪みみたいなものが出てきている。そこでESG(環境・社会・ガバナンス)であるとか、サステナブル(持続可能な発展)の話になっているんだと思うんです。十数億人が先進国化していってエネルギーを使うようになると、どうしてもゴミも出るし、二酸化炭素も多くなる。それを何とかしないと、オランダなんか沈んじゃうよね、みたいな話になっているのが、今の資本主義見直し論だと思います。

土井 なるほど。最後に、僕は出版のプロデュースとかもやったりして、本のマーケティングにもかかわっているんですけど、ブームになって短期で終わるものと長期で続くものってあるじゃないですか。本でいうとベストセラーとロングセラーみたいな世界なんですけど。ブームで終わるものと長く続くものの違いっていうのは、奥野さんは何だと思いますか。

奥野 面白いですね。何だろうな。やっぱり「原則」だと思いますね。

土井 原則?

奥野 原則が書かれたものというのは、多分ずっと広く長く読まれるということ。原則って、要は人が生きる上では必ずこういうことが必要だ、こうなったらこうなるよね、ということが書かれている。さらに、抽象と具体が行き来する内容ならばなお面白いですね。おそらく10年後も、20年後も読まれる。反面、いわゆる流行りで、テクノロジーがこうなったからこうなった、だからこういうことが起こっているみたいな話というのは、そのテクノロジーが変わったら、もう全く読まれなくなると思います。具体的なことにしか言及していないものは原則にはなり得ないんでしょうね。

土井 なるほどね。昔、日本経営合理化協会がウォーレン・バフェットとビル・ゲイツがワシントン大学で対談したDVDを出していました。そこで変化についてどう考えるかみたいな質問を大学生からされて、バフェットが言っていたのは、これに関してはビルと私は見方が違うと。ビルは変化をすることで利益を叩き出している、私は普遍のところに投資することで利益を出している、みたいなことですよね。おそらく投資家としては、どちらにも乗じることができるんだろうなとは思うんですけど。

奥野 そうですね。

土井 原則ですか。なるほどな。ただ、これ、本の企画していてもすごい思うんですけど、原理原則を貫いて売れてる本ってやっぱりあります。例えば『人を動かす』とか、発想系だったら『アイデアのつくり方』とか。でも原理原則すぎるがゆえに、斬新さみたいなものがなかったりするじゃないですか。そこで新しいもののほうがもっと売れることになるわけだけど、どんな分野でもあるとき新規参入のものが取って代わって新しいロングセラーになることがあると思うんです。それって何が違うんでしょうか。

奥野 例えばどんなものがありますか。

土井 僕はこんまりさん(近藤麻理恵)のプロデュースをしているんですが、今までいろんな片付け本あったけど、『人生がときめく片づけの魔法』はかなりロングで売れています。あれは、ときめきっていう、片付けの基準を変えたんですよね。

奥野 そうですね。あの本は本当に面白いですね。

土井 今までは必要か必要じゃないかだったけど、そうじゃなくて、ときめくかときめかないか。これのほうが、物質過多の時代には合っている基準だなと考えたからああいう企画にしたんです。それこそ長期トレンドに合っていたということなのかもしれない。やっぱりトレンドって取って代わる瞬間が必ずやってくるような気がします。守る側も攻める側もすごく難しいとは思うんですけど、それって何なんだろうなって、僕自身も考え続けているテーマです。

奥野 多分ですね、面白いものっていうのは、Aっていう具体的なものから、より本質的なものとか原則的なものを抽出する作業なんでしょうね。僕、こんまりさん大好きなんですけど。片付けから、ときめきとかね、生き方みたいな本質的なところまで落としていくじゃないですか。落としていく過程でものすごく本質的なところに触れる。本質的なところに触れると、別のところにも応用が効くんですよね。

土井 なるほど。

奥野 例えばある会社を分析したら、長期潮流がこういうふうに見えたというのがあったとします。じゃあ、この本質に乗っている他の会社はないのかと探したりできるわけです。Aという具体的なものを見たときに、いかに抽象化できるか。つまりわかりやすく説明できるかということが、売れる本か売れない本かの差になるのかもしれないですね。

土井 なるほどね。企業、投資の世界でいったら、全然違う業界だけど競合に将来なり得るとか、そういうことが当然起こってくるわけですよね。

奥野 それをやるから、僕たちは化学メーカーにも投資ができるし、お菓子メーカーにも投資ができるし、日本の会社にもアメリカの会社にも投資できる。というのは、結局良い経営には全部同じにおいがあるからだと説明しています。

土井 あー、においね。

奥野 そう、においがある。それが、もうちょっとちゃんと説明しようよって言われたら、「構造的に強靭な企業」の3つの基準になっていくということですね。

奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実戦する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は約4000億円。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。

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