コロナ禍で増える退職勧奨
ここのところ、退職勧奨の相談が増加しています。
私が所属する日本労弁護団では無料の電話相談を行っています(電話代は相談者負担、詳しくは、こちらをご覧ください)が、先日、私がその電話相談の担当をした際も、3時間で9件の相談があり、うち5件がコロナの影響によるものでした。そして、すべてに退職勧奨が絡んでいました。
そのような状況ですので、コロナ禍の中で増える退職勧奨に対して労働者はどう対応すればいいのかについて、基本的なところを解説したいと思います。
退職勧奨とは何か?
まず、退職勧奨とは何かを知ることが必要です。
退職勧奨とは、会社から労働者に対して「辞めてくれないか」という「お願い」になります。
法律的に言うと、会社と労働者との間に存在している労働契約を解約しませんか?という会社から労働者への申し込みです。
この会社からの申し込み・お願いを、労働者が受け入れると、合意退職となります。つまり、労働契約は、労働者と会社との合意によって解約され、終了します。
解雇とは違う?
ごくまれに、相談に来られる方に「会社に解雇されました!」と言っているのですが、よくよく話をきくと、退職勧奨をきつめに言われただけだった、ということがあります。
たしかに、きつく「会社を辞めてくれ!」と言われれば、クビになったような気持ちになりますので、労働者からすれば「解雇された!」と思っても仕方がないところはあります。
しかし、退職勧奨と解雇では法的には全く違います。
解雇は、会社が一方的に「あなたとの労働契約を解約します!」(言い切り)というもので、労働者の同意は不要です(むしろ、同意をとろうとするのは怪しい動きです。これについてはコチラを参照してください)。
もちろん、我が国では解雇は自由にできませんので、その後に解雇が争われて無効となることは多々あります。
他方、退職勧奨は、「あなたとの労働契約を終わりにしませんか?」という申し入れであるので、労働者の応答次第では、何の変わりもなく労働契約が続く場合もあります。
退職勧奨への対処法
では、このような退職勧奨を会社からされた場合、どう対応すればいいでしょうか。
まず、自分の意思として、退職してもいいのか、退職したくないのか、これを決めることになります。
退職したくない場合
退職したくない、という意思の場合は、次のような対応が考えられます。
きっぱり断る
退職したくない場合は、きっぱりと「退職しません」と会社に返事をしましょう。
できれば、形に残るような返事が望ましいです。たとえば、メールやLINEなどで返事をしたり、書面で返事をするなどです。
先ほども指摘した通り、退職勧奨は、あくまでも会社からの「お願い」に過ぎません。
そして、労働者がこの「お願い」を受け入れる義務は全くありません。
退職するつもりがなければ、退職するつもりはない、それを回答すれば、本来それだけで退職勧奨の問題は終了するのです。
しつこいと退職強要という不法行為に
それでも会社がしつこく「退職してほしい」などと言ってきた場合はどうなるでしょうか。
労働者が辞める意思がないにもかかわらず、会社がしつこく退職を求めると、それが退職強要と呼ばれる不法行為になることがあります。
労働者は会社を自由意思で辞めることはできますが、会社を辞めることを強要されることはありえません。
したがって、退職勧奨が退職強要といえるような場合には、それは不法行為となり、会社は労働者に慰謝料などの支払い義務を負います。
退職勧奨と退職強要の境目は?
退職勧奨がしつこく続く場合といっても、様々な場面がありますので、退職勧奨が常に退職強要となるわけではありません。
退職勧奨が退職強要といえるためには、まず労働者が「退職しません」との意思を会社に明示していることをが前提になります。
その上で、退職勧奨の回数、頻度、時間、人数(労働者に対して会社側が複数)、態様(家まで行く、親族にまで言うなど)、発言内容で判断されます。
最近は大企業などでは退職勧奨で言ってはならないことマニュアルというものがあるらしく、それによれば「給料泥棒」「役立たず」などはNGワードとされているそうです。
これは、逆に言えば、こうした言葉を使って退職勧奨が行われれば、退職強要となる可能性が高まるということを意味します。
ただ、口頭での言葉は、後で立証するのは大変ですので、退職勧奨については全て録音することが大切です(無断録音してもOKです。これについてはコチラをご覧ください)。
退職勧奨・強要が続く場合
退職勧奨をきっぱり断っても、説得という名の下に退職勧奨が続くことがあります。
その場合、退職を求める面談への出席自体を拒否しても問題ありません。
中には、「業務命令だ!」といって、退職勧奨を断っている労働者に、退職を求める面談に出席させようとする会社もありますが、退職するかどうかは労働者の自由意思であり、既に退職しないことを明らかにしている労働者に対する退職を求める面談への出席の強制は、たとえ業務命令という形をとっても認められません。
退職したくない場合まとめ
- きっぱりと断る
- 退職勧奨については録音して証拠をとっておく
- 退職勧奨のための面談への出席も断れる
- 執拗な退職勧奨は退職強要として不法行為になる場合がある
退職してもいい場合
次に、退職してもいい場合についてはどう応じればいいでしょうか。
自己都合退職か会社都合退職か
まず、注意すべきは退職の理由をどうするかです。
一身上の都合として、自己都合退職とするか、会社からの退職の勧めに応じたとして、会社都合退職にするかです。
失業給付については、会社都合退職の方が給付が早くされますので、これを重視する場合は会社都合の退職としてもらいましょう。
他方、労働者の中には、履歴に会社都合退職とつくのを嫌う人がいますが、その場合は、自己都合退職にするように会社に求めれば、断る会社はまずありません。
問題は会社都合退職とすべきなのに、会社が自己都合退職にしてほしいなどと言ってきた場合です。
会社としては、公的な助成金を受けている場合、会社都合退職者を出せないことがあり、このような矛盾したことをお願いしてくることがまれにあります。
もし、そうなった場合は、会社と退職条件を交渉するか、または、そのお願いを振り切ってハローワークに会社都合であったことを証拠で示して、会社都合と認定してもらうなどの対応が考えられます。
退職条件を引き出せることもある
また、退職してもいいけど、ただではしたくない、という人もいると思います。
その場合は、「退職金として〇〇円払ってもらえば退職してもいい」と交渉することも考えられます。
交渉は弁護士を立てるとやりやすいですが、もちろん本人でもできます。
まともな会社であれば、リストラで労働者に辞めてもらう場合には予算を組んでいる場合が多いので、退職勧奨に素直に応じるだけではなく、退職金の支払い・上乗せを求めれば、応じてくれることもあります。
また、再就職活動に必要な期間の在籍などを求めることもあります。
いずれにしても、労働者は退職というリスクを負うわけですから、会社に遠慮することなく、退職との引き換え条件を求めましょう。
もちろん、条件が折り合わなければ退職しなければいいのです。
それも労働者の自由です。
退職してもいい場合まとめ
- 自己都合が会社都合か注意
- 退職条件の交渉が可能
- 条件に合意できなければ退職しなくてもOK
おわりに
コロナ禍が続く中、企業による退職勧奨は今後も増えることが予想されます。
もし、自分が退職勧奨にあった場合、自分だけで対応するのは精神的にもきついことがあります。
また、交渉するにしても、個人が会社と対等に交渉するのは、心理的につらいこともあります。
ですので、その場合は、一人で悩まず、弁護士や労働組合に相談することをお勧めします。
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