25日にも全ての都道府県で緊急事態宣言が解除される見通しが出る中、24日のNHK日曜討論で今後に必要なことが議論された。この中で真っ先に議論が出たのは、やはり検査体制の拡充だった。感染者を早期に見つける体制作りということだ。そうした議論を踏まえて、ここでは防衛予算の組み換えを提案したい。
「検査を受けられるのが当たり前」という体制の構築
番組の中で、連合の神津里季生会長は、「次の感染期に備えて如何に足場を固めるかという非常に大事なゾーン。医療と経済は二者択一ではない。人々の安心が無いと成り立たない」と述べた上で次の様に指摘した。
「検査の数はまだまだ足りない。見えない感染リスクとの闘いは大変な精神的な負担がある。通勤などでの漠然とした不安などからいかに解放するのか、不安をなくすのか、社会全体としても検査を受けられるのが当たり前のことであって、感染をしていても、入院なり隔離なり、そういった施設が確保されているという安心感が最大の鍵だ」
これまで検査体制の拡充に慎重な姿勢を示していた印象の有る日本医師会の横倉義武会長も、神津会長の意見に同意を示して次の様に話した。
「国民に安心感をもってもらうというのは非常に重要で、安心の素は、必要な医療が受けられるという状況。そのためには、感染したかなと思った時に検査を受ける、そしてもしコロナに感染したのであれば、適切な医療や隔離ができる環境を作っていく。そういうことをしっかりとやっていくことが重要」
これに対して加藤勝信厚生労働大臣も、検査体制の拡充を進める考えを示し、そのために、唾液を使った簡易な形のPCR検査の導入など、新しい技術を積極的に活用すると話した。
PCR検査の拡充という声を紹介すると、拒否反応を示す意見が今も寄せられる。その中には「全国民がPCR検査を受けるなど現実的ではない」とといった批判も有るが、その様な指摘が出ているわけではない。以前にもエコノミストの大田弘子氏の意見を紹介したが、経済を本格的に再開するためには、必要と感じた人が検査を受けられる体制を整備するということだ。それが人々に安心感を与えるという主張であり、私は合理性が有ると考える。
感染症の専門家で昭和大学の二木芳人教授に私が直接、尋ねたところでも、「ウイルスとの共存ということを考えれば、インフルエンザの場合の様に、必要な人が直ぐに自身の感染を確認できる体制が必要だ」と語っている。
防衛予算の組み換え
勿論、そのためには予算が必要となる。加藤大臣は二次補正の速やかな成立を口にした。勿論、二次補正は必要だろう。ただ、私は違う観点からの指摘をしたい。この日の番組に出ていた経団連の中西宏明会長は、以前の同番組で、安全保障の考え方を広げて、感染症対策もその一つだという認識を共有する必要性を主張した。
それも踏まえて考えた時、既に成立している20年度の本予算での5兆円を超える防衛費の組み換えは不可欠だと感じる。断っておくが、私は自衛隊を否定する立場ではない。イラクに自衛隊が派遣された時はその活動に現地で密着しており、自衛隊を平和憲法の下でどう活かすかを考える立場だ。
今回の新型コロナ対策でも、自衛隊が何をしているのかを注視してきた。これまでの状況で言うと各地で医療体制を下支えする役割を担っていたとは言える。例えば、クルーズ船で感染が疑われた人や帰国する外国人の移送は自衛隊が担っている。しかし、それが自衛隊の活動なのか?疑問を感じるが、仕方ない。今の自衛隊には新型コロナに全国的に対応できるような体制は無いからだ。それを変える必要が有る。
先ず、20年度の本予算の防衛費から繰り越しが可能なものをピックアップしてみたい。
F35A戦闘機3機の新規調達で310億、護衛艦の空母化とそれに伴うF35B戦闘機の調達で877億、イージス・アショアの発射装置の購入で122億となっている。また、掃海機能を持った新規の護衛艦の建造で940億も計上されている。これらの合計は2249億円になる。
アメリカから買うF35A戦闘機は、当初は42機だったものが、トランプ大統領のごり押しを受けてF35Bを含めて147機を購入することになったものだ。ここでは、アメリカ空軍でさえ、F35のコストパフォーマンスの悪さが問題になっているという議論には踏み込まない。しかし、今年買わねばならない理由は唯一つ、トランプ大統領に向けたポーズでしかない。また、護衛艦の空母化については海自OBからも不要論が出ているが、その議論に踏み込むつもりもない。要は、今年度の予算に是が非でも入れなければいけないものかという点だ。
自衛隊は医師、看護師を自前で養成し、中央病院や各地の自衛隊病院、各部隊で勤務している。その機能の強化は今こそ、議論しなければならない。例えば、護衛艦の新規建造、空母化を止めて病院船を建造することは可能だろう。アメリカは軍の病院船を西海岸と東海岸に派遣。新型コロナ以外の患者の治療にあたった。また、軍が大規模な野戦病院を設置して、PCR検査の実施などを支援している。加えて、日本に停泊したクルーズ船の乗客らが経過観察のために滞在した場所も軍の施設だった。アメリカ軍にはそれができる。しかし自衛隊にはそれだけの能力は無い。
それ故、提案したい。この時期に自衛隊病院のための感染症対策器材を揃え、それを全国の病院に拠出する体制をとるべきだ。実は、20年度予算でも、自衛隊の医療部門の強化は言われている。「感染症などへの対応能力の向上」という項目もある。しかし、その予算は約3億円でしかない。今、F35戦闘機1機と感染症対策の強化とどちらが重要か?政府も与野党も、その判断が問われている。
緊急事態宣言が解除されても、新型コロナの状況は予断を許さない。第二波は必ず来るとの指摘もある。
感染症のようないつ起きるかわからない問題への備えを考えると、自衛隊がその役割を担うことが最も適している。中西会長が指摘するように、それも安全保障だという考え方を議論すべきだ。
何度も書くが、やみくもに正面装備費の削減を主張しているものではない。必要なものは購入すべきだろう。しかし、防衛予算は長期的な視野で計上されており、ある意味、弾力性のある予算となっている。今年度でなければならないのか?その議論が可能だ。
韓国は既に国防予算を一部削減して新型コロナ対策に振り分ける決定をしている。防衛予算を未曽有の危機への対応に振り分けることはその趣旨に合致する。何が不要不急なのか?今必要なのは空母や最新鋭戦闘機なの?それとも、感染症対策の強化なのか?その答えは既に出ている。
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May 24, 2020 at 12:20PM
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