大手タイヤメーカーのグッドイヤーが、タイヤの摩耗を抑える新しいコンセプトを発表した。そのアイデアとは、すり減っても自動的に“自己再生”するタイヤだ。いったいどんな仕組みなのか。
TEXT BY ERIC ADAMS
TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO
もしグッドイヤーの研究がうまくいけば、ゴムが数ミリメートルほどすり減っただけで毎年のようにタイヤを丸ごと交換する必要がなくなる。このほど同社が発表した常識はずれのコンセプトに基づくこのタイヤは、トレッド(地面と接触する部分)を自動的に自己再生し、毎日の利用で減っていくゴムを継続的に新しくしていくというものだ。
「reCharge」と名付けられたこのコンセプトは、タイヤ業界を悩ませている廃棄物を抑制する方法に着目したものだ。米国では2017年に、約2億5,000万本ものタイヤが廃棄されている。グッドイヤーの最高技術責任者(CTO)のクリス・ヘルセルは、「タイヤはクルマの寿命までもたない数少ない部品のひとつです」と言う。「何度も交換が必要です。つまり、第一に解決すべき問題は、タイヤをクルマ自体の一部として、どちらかといえば永久的な構造にすることなのです」
まるでリップスティックのような仕組み
この目的の達成に向けてグッドイヤーの技術者たちは、たとえるならスティック型のリップクリームのような仕組みを考案した。ホイールの中心に、生物分解可能な液状のコンパウンドを詰めた円筒型の加圧カートリッジを据えるというものだ。
走行距離が長くなってトレッドが摩耗してくると、カートリッジの内部とタイヤの表面の間の圧力差によってコンパウンドが押し出される。コンパウンドは自動的に、ホイールの中心からタイヤの表面まで放射状に伸びる溝からにじみ出て、網目のような構造を通って適切な形状になる。
なお、このシステムではタイヤとホイールの一体化を前提としている。タイヤを金属のホイールに取り付けるのではなく、エアレスタイヤの支持構造を使うかたちだ。こうしてコンパウンドが外気に触れる、すなわちゴムが路面に接すると硬化するので、タイヤがすり減ることはなくなる。
こうして古くなったタイヤが数年ごとに廃棄されるのではなく、その構造の大部分がクルマ自体と同じくらい長く維持されることになる。
もっと長持ちするタイヤに
ホイール中央のカートリッジは、ホイールの予想寿命の間に数回の交換が必要になると、グッドイヤーは推測している。これによって廃棄物が少なくなるとヘルセルは言う。すり減ったタイヤは、たとえトレッドの下やサイドウォールの構造部材が完全に無傷であっても廃棄されてしまうからだ。
reChargeのコンセプトには、ほかにも気の利いたアイデアがいくつか盛り込まれている。ヘルセルによると、reChargeのシステムに埋め込まれたセンサーが、摩耗のパターンや運転スタイルを分析することで、次にユーザーが取り付けるコンパウンドの種類を最適なものにカスタマイズできるのだという。
頻繁にブレーキを踏む人や性能にこだわる人には、それぞれ最適なコンパウンドがある。燃費を意識して運転するエコな人も同様だ。気候や路面の状態なども影響する。
このタイヤは電気自動車(EV)にも適している。EVは一般にガソリン車よりも重量があり、加速時にかかるトルクも大きい。このためタイヤの摩耗が20~50パーセントほど早く進行するという。
「このため(EVには)もっと長持ちするタイヤが必要になります。このアイデアはタイヤの寿命を延ばし、交換を大幅に簡単にします。カートリッジだけを交換することによって、交換が必要な部品の数は従来のタイヤと比べて10分の1になります」
タイヤは、もっとスマートに
ただし、このコンセプトは本格的な生産までにはほど遠い。肝心のコンパウンドがまだできていないうえ、コンセプトに謳われた通りに機能させるには複雑な作業が必要になる。酸化によって硬化させる部分などは特にそうだ。ヘルセルによると同社は、丈夫なことで有名な天然のクモの糸からインスピレーションを得て、繊維状の材料などを利用して強度を高めることを考えているという。
一方で、reChargeのコンセプトにおける別の要素が、完全な製品よりも早く、ひょっとすると10年以内に登場する可能性もある。このコンセプトで提案されたタイヤのコンパウンドや構造的なフレームワーク、あるいは埋め込みセンサーやAIに基づく使用パターンの分析などが、コンセプトの実現よりも早く従来型のタイヤに導入されるかもしれない。
タイヤのトレッドは、いつかは摩耗するだろう。しかしタイヤは、さらにスマートになっていくのだ。
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