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Sunday, March 29, 2020

出産、末期がん、臓器移植……通院が必要な若者たちが、新型コロナウイルスに抱く不安と本音|WIRED.jp - WIRED.jp

新型コロナウイルスの感染拡大を不安に思っているのは、高齢者や呼吸器に疾患をもつ人々だけではない。若者のなかにも、出産を控えている女性や抗がん剤による治療中の患者、臓器移植のために免疫抑制剤を服用している患者など、感染のリスクを承知で病院に通わねばならない人たちがいる。こうした人々はパンデミックに何を思うのか、本音を聞いた。

WIRED(US)

pregnant woman

新型コロナウイルスによる感染が広がるなかでも、出産などのために病院に行かねばならない人たちがいる。MIKUMI/GETTY IMAGES

社会距離戦略によって人との距離を保つこと、そして自ら家にこもって自主隔離すること──。それは自身のためであると同時に、他者のためでもある。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって感染が拡大するなか、感染から身を守ったり他者との距離を保ったりする努力は、自分のためだけではない。周りにいる高齢者や、長期にわたる深刻な疾患をもつ患者など、体の弱い人たちの命を守ることにつながる。そういった人たちにとって自主隔離は、二重の意味で極めて重要なのだ。

問題は、基礎疾患がある人や医療によるケアを必要としている人の多くは、自宅にこもっているわけにはいかない点だろう。抗がん剤による治療中の患者や肝移植手術を受ける予定の患者、あるいは妊娠中の女性は、病院に行くことをいつまでも先延ばしにはできない。治療や出産のためには、新型コロナウイルスの感染者に出会う可能性が最も高い病院という場所へと、行きたくなくても行かねばならないのである。

ネットに溢れる不安の声

そういった人々は当然ながら不安を感じている。いまのように緊急性のない手術の中止が検討されたり、専門外の医師までもが呼吸器科に駆り出されて診察していたりするような病院の状況に警戒心を強めているのだ。

ネット上には新型コロナウイルスに対する不安の声が溢れている。医学的に深刻な状態にある人々が参加するFacebookグループや、オンライン掲示板「Reddit」のコミュニティでも同じだが、こうした人々の声は一般の人たちよりはるかに具体的で、切迫している。

すべてのコミュニティにおいて最も多いのが、「いったいどうしたらいいの?」という発言だ。医学的な指導も政府からの指示も世界的に不足しているなか、大半の人々は同じ行動をとっている。つまり、さまざまな人と話し、答えを探しているのだ。

コミュニティのなかには、「手洗いをして外出を控えることがいちばんだ」と呪文のように繰り返す人もいる。主治医が曖昧なことしか言ってくれないと、ぼやく人もいる。皮肉な冗談を飛ばす人もいる。

がんに関するトピックを扱うRedditのコミュニティ(r/cancer)では、ユーザーのひとりが「もしわたしが新型コロナウイルスに感染してひどい死に方をするなら、がんのせいでひどい死に方をしなくて済むということだ。どちらがいいも悪いもない。五十歩百歩だね」と発言している。またある者は、慰めの言葉をかけて回っている。

若い患者が抱える不安の正体

恐怖は人々の間に急速に広まりつつある。実際に医学的な不安を抱く人々に話を聞かせてもらったが、そのほぼ全員が、わずか1週間で不安が増したと答えている。イタリアなどの国では隔離措置がとられ、新型コロナウイルスの感染者が世界中で急増しているからだ。

ニューヨーク市に住む妊娠中の女性リンジー・ヴラニザンは、次のように語る。「最初の1カ月かそこらは、ニュースや今後の予想などの情報を聞き流していました。母親が感染しても赤ん坊に垂直感染する可能性はほとんどない、といった明るいニュースを読んで、新型コロナウイルスについては考えないようにしていたんです」と語る。だが、状況は変わった。「この問題が医療システムに及ぼしうる影響に気づいてからは、ひどく不安になってきました」

医療システムが専門家が言うところの「対応能力の限界」に達すれば、病院のベッド不足が深刻化すると考えられる。ヴラニザンにとっては、どこで出産できるのか、生まれた赤ん坊が感染の危険に晒されないかという2点が、最大の心配事だ。

英国のヨークシャーに住む24歳の末期がん患者Bや、腎臓移植のために免疫抑制剤を服用しているロンドン在住のトム・グリーンといった患者たちは、医学的に弱い立場であるにもかかわらず気にとめてもらえない問題に直面している。というのも、新型コロナウイルスに関するニュースの多くは、60歳以上の高齢者や、心臓や肺に疾患がある人々への影響に重点を置いている。一見して重い病気であるとわかりづらい若者は、感染の危険に晒されやすいのだ。

仲間うちですら、理解を得ることは難しい。「ぼくは34歳で高齢者ではないので、感染の危険が高いことを周りの人から理解されていないと感じます。周りの人たちが『自分は大丈夫だろう』と考えて用心していないので、不安です」と、腎移植を控えるグリーンは語る。

命の危険が伴う2つの“賭け”

こうした不安を抱えていることから、グリーンをはじめとする患者は人の多い場所を避けている。特に病院や診療所を自己責任で避けている者が多い。

取材のために話を聞かせてもらった米国在住で匿名希望のAKは、次のように語る。「わたしは原発性胆汁性胆管炎による肝硬変のせいで末期の肝不全の状態にあり、移植手術の待機中です。病状を監視するために1カ月ごとに血液検査を受ける必要がありますが、医療機関に行くのが怖かったので、2月と3月は検査を受けていません」

検査を受けないことは危険だろうか? もちろんそうだろう。しかし、医師のもとに行くこともまた、危険なのだ。AKはこうも言っている。「医師からは自主隔離するように言われています。わたしは病気のせいで貧血を起こしており、ただでさえ臓器への十分な酸素供給が困難です。ウイルスであれ細菌であれ、酸素の吸収を妨げるような何かに感染すれば、命とりになるのです」

AKは命の危険が伴う2つの“賭け”の間で、身動きがとれなくなっている。

末期がん患者が感染しても治療されない?

新型コロナウイルスの流行による影響をまだ直接的には受けておらず、いまのところ以前と同じように治療を受けられている患者も危機感を抱いている。医療機関の基本的な資源の調達や補給が滞る心配があるからだ。イタリアで医師がトリアージ(治療の優先順位を決める)というつらい作業を余儀なくされているという報道があったあとでは、なおさらだろう。

末期がん患者のBは、次のように語る。「もし自分が新型コロナウイルスに感染したら、生き延びるためにはきっと医師の助けが必要になるでしょう。けれども、末期がん患者であることが原因で、救うだけの価値があるとはみなされず、医師から治療を拒否されることもわかっています」

そしてBは本音を打ち明けた。「そういった選択の背後にある理屈は理解できます。でも、あと1年しか生きられないかもしれない者としては、その貴重な1年すら失う可能性があると知って、ひどくおびえています」

Bは病院に行かざるを得ないことから、そこにいる間は5分おきに消毒液で手を消毒しているという。「周りにいる人たちはせきをしていて、わたしはマスクをもっていないんです」

オンラインコミュニティの果たす役割

こういった恐怖を和らげるために、病院と医師たちは最善をつくしている。だが、人々を不安に陥れる予測や仮説を前に、確かな答えや解決策を提示することは難しい。

移植患者のグリーンは、「いまのところ、“どのように”生活すればいいのかわからなくて、とてもとまどっています」と語る。彼は医師に連絡することすら苦労しているという。

症状の重い患者がいる医療チームは、いくつかの注意事項を添えて患者のほぼ全員に同じ忠告を与えている。「移植チームの全員から同じ忠告をもらいました」と、フロリダ在住で免疫抑制剤を内服している心臓移植希望者のブルック・トーマスは言う。「『せきが出始めたら病院に来なさい。そうでなければ、いつも通りに過ごしなさい』ってね」

こうした患者たちは、誰もがネット上のコミュニティからある程度の慰めを得てきた。グリーンは「ぼくがネット上で本当に共感できるコミュニティは、移植に関するRedditの『r/Transplant』だけです。コミュニティはある程度は役に立ちますが、それでもぼくが現状にひどく混乱していることには変わりありません」と語る。

ほかの者も彼と同意見だ。妊婦のヴラニザンは、自分が参加している妊娠について語り合うネット上のコミュニティについて、こう話す。「数カ月前には、靴のサイズがだいたいどれくらい大きくなるかを質問していたんです。いまでは同じコミュニティに行って、この悪夢のような状況で自分と同じように打ちのめされ、不意をつかれて困惑している人たちに同情したり、うっぷんを晴らしたり、ときには軽口をたたいたりしています。新型コロナウイルスの大流行に関して言えば、詳しい情報をもっている人など誰もいないんですから」

担当医や病院ができること

病院では、新型コロナウイルスの感染者とそれ以外の治療を必要とする患者の両方が可能な限り受診できるように、またできる限り安全性が保たれるように気を配っている。「非感染者の安全を確保する鍵は、感染者への対応を適切な手段で確実に実行することです」と、ワシントン州病院協会の広報担当者は言う。「症状があって医療的なケアを必要とする人に対しては、確実に安全な方法で病院に入れるようにするため、まずは病院に電話をしてほしいと伝えています」

この場合の「安全」とは、防護服を着たスタッフに出迎えられ、付き添われて、ほかの患者から離れた出入口を通って病院に入ることを意味する。

ニューヨーク市のマウントサイナイ病院からシアトル子ども病院にいたるまで、多くの病院が新型コロナウイルスの患者や面会者に対して、新たにつくった特別なルールを課している。またほとんどの病院は、面会者を2人までに制限している。

ヴラニザンの通う病院では、分娩室に入れるのは配偶者と両親、義理の両親だけだ。医師によっては、患者に対してこれよりも厳しい制限を設けている。

カリフォルニア州中部に住む妊娠中の女性サラは、「担当の産科医からは、新型コロナウイルスの流行が深刻化して空きベッドがなくなった場合は、ベッドの空きが出るまで“誘発分娩”を延期しなければならないかもしれないと言われています」と言う。いまのところ、サラのような患者に対して担当医が実際にできることは、計画を立てて様子を見て、警告を与えることぐらいである。

いら立ち、困惑しても無理はない。だが、これは避けられない事態でもあるのだ。

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