「株式譲渡」はM&Aで最も多く使われている手法ですが、他の手法と比較して何が違うのか、税金はどうなるのか、把握していない経営者が多くいます。そこで今回は、株式譲渡の基本について解説していきます。※本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。
「株式譲渡」のメリットとデメリット
株式譲渡とは、自社の株式をすべて第三者となる買手会社に売却して、会社ごと譲渡するM&Aの手法のひとつです。
株式譲渡はM&A手法のなかで、中小企業が最も多く利用しています。他の手法では特別決議や債権者保護手続きが必要だったり、簿外債務を引き継いでもらえなかったりなど手続きが煩雑になるケースが多いのに対して、株式譲渡は比較的、手続きが簡単だからです。
また、事業承継で後継者がいないなどの問題で、M&Aを活用して株式譲渡をする中小企業が増えています。
株式譲渡には、いくつかのメリットがあります。
まず株式譲渡では売却益を得ることができます。しかし、売却益を得ることによって税金を納付しなければならない点は注意が必要です。
また事業承継を目的に会社を売却した場合、会社の経営を引き継いでもらえるので、そのまま会社を存続させることは可能です。なお、会社名はそのまま継続されるかどうかは買手会社の判断になりますが、設立してから長い期間の経っている会社の場合、ブランド力や伝統があるので、会社名を変更しないほうがメリットも多く、社名変更なしで継続される場合も多いです。
さらに株式譲渡では、株主総会の承認や債権者保護手続きが必要ないので、比較的手続きが簡単といえます。しかし株式の譲渡に制限がかかっている非公開会社の場合、少し手続きが異なるので注意が必要です。
一方で、株式譲渡にもデメリットがあります。まず「簿外債務などすべての債務を引き継ぐことになる」ことは、株式譲渡の一番のデメリットだといえます。実際に購入した後に知らない債務を発覚し、会社の経営に大きく影響が出るケースも多いので、事前にきちんと専門家に依頼して債務について調べることが大切です。
また会社を売却すると、原則として売手会社の経営者は20年間競争避止義務が発生するので、同じ事業内容ができなくなります。競争避止義務は契約書にもきちんと明記されています。
リスクを許容できるか
「譲渡制限株式」を譲渡するには?
非上場会社の株式(譲渡制限株式)を譲渡するには、大きく下記のような流れになります。
(1)「株式譲渡承認請求書」を作成
(2)取締役会、もしくは株式総会にて承認手続きをする
※反対された場合、制限株式を買取る必要がある
(3)2週間以内に請求人に結果通知する
(4)公正取引委員会への届出
(5)株式譲渡契約書を締結
(6)株主名簿書き換え
株式譲渡する時の税金は「個人」と「法人」で異なる
前出の通り、売却益を得ることができるので、株式譲渡では税金が課税されますが、個人か法人かによって税金が異なります。
個人の場合、譲渡価格ではなく、譲渡所得に対して「20.315%(所得税15.315%、住民税5%)」が課せられます。
譲渡所得=譲渡価格−諸経費
税金=譲渡所得×20.315%
上記計算式のとおり、節税をするにはいかに諸経費をきちんと計上することがポイントになります。
株式譲渡の諸経費には「M&A仲介会社に支払う仲介手数料」や「専門家に依頼したサポート費用」などが挙げられます。しかし、実際に株式譲渡の諸経費を把握していない会社も多いので、その場合、取得費の概算は「売却価格×5%」で算出できます。たとえば、個人が5,000万円で株式譲渡をした場合は、税金は下記の通りになります。
譲渡所得:5,000万円−5,000万円×5%=4,750万円
所得税:4,750万円×15.315%=727万円
住民税:4,750万円×5%=237万5,000円
税金:727万円+237万5,000円=946万5,000円
なお、ここで注意すべきは、「所得税」と「住民税」の納税時期が違うところです。所得税は、3月の確定申告後に納付しますが、住民税は、「普通徴収」の場合、会社を売却した翌年6月頃に届く納付書を持って納付します。
一方、法人の場合は法人税として課税されます。下記計算式にて算出することができます。
譲渡所得=売却価格−諸経費(取得費、譲渡費用)
法人税=譲渡所得×法人税率
法人の場合、諸経費をきちんと計上することが最大の税金対策です。しかし、個人では概算取得費が利用できるのに対して、法人の場合は適用されないこと注意しましょう。また、M&Aの売却価格の一部を役員退職金として受取ることにして、売却価格を低くすることもひとつの節税対策です。
また株式譲渡の場合、一般的には買手会社には税金が発生しません。しかし、利害関係がある親族間などの譲渡で、時価より著しく譲渡価格が低い場合は問題となることがあります。事前に専門家に相談するようにしましょう。
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